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TPPはいかにしてASEANの経済統合を崩壊させるか

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2016年に入り、ASEAN共同体が本格的に始動した。ASEAN共同体の中で最も重要な柱はASEAN経済共同体(AEC)であり、これは第二ASEAN協和宣言(バリ・コンコードⅡ)にあるように、「モノ・サービス・投資・資本が自由に流動し、衡平に経済が発展し、貧困と社会経済格差の少ない、安定・繁栄し高度な競争力を有したASEAN経済地域を創設すること」を目指している。つまり、ASEAN経済共同体は東南アジアの経済統合を実現するために設立されたのである。

これらとほぼ同時期、ASEAN共同体の発足の約3か月前に12のアジア太平洋諸国が環太平洋連携協定(TPP)の交渉を妥結した。この12か国の中には、ブルネイ、マレーシア、シンガポール、ベトナムといった4か国のASEAN加盟国が含まれている。

数か国のASEAN加盟国がTPPに合意し、残りの加盟国は合意していないという状況は、貿易と投資の流出、国家間格差の増大、ASEAN指導者同士の否定的感情の高まりという3つの点において、ASEAN経済共同体を崩壊させる可能性をはらんでいる。

TPPが引き起こす貿易と投資の流出

貿易と投資の流出は、貿易協定を結んだ結果、貿易と投資が自国から離れ、他国へ移ることで起きる。

今回のASEANのケースでは、貿易と投資はTPP不参加国(ASEAN加盟国で、TPPに参加していない国)から、TPP参加国(ASEAN加盟国で、TPPに参加している国)に転換されるだろう。このような貿易と投資の流出は、貿易障害を減らし、外国人投資家へより良い保護を与えるといったメリットをTPP参加国に与えることによるものである。

TPPが引き起こす貿易と投資の流出は重要な意味を持つ。なぜなら、アメリカ、日本、そしてオーストラリア(すべてTPP参加国)はASEANの貿易相手国の上位10か国に含まれているからだ。

上記3か国を合算すると、2014年の貿易額は5,110億米ドルで、ASEANの貿易総額の20.2%である。これはASEANの域内貿易の24%に匹敵する。

海外直接投資(FDI)に関して言うと、アメリカ、日本、オーストラリア、カナダはASEANのFDI資金源の上位10か国である。合算すると3330万米ドルで、2014年のASEANにおけるFDI総額の24.5%を占め、これはASEAN域内のFDIの17.9%を上回る。地域統合の観点から、貿易と投資の流出はASEAN経済共同体の最も重要な特色の一つである単一市場・生産基地に打撃を与える。

ASEAN内の経済格差

ASEAN加盟国間の経済格差は当初から広がりつつある。ASEANは、人口2億5,200万人のインドネシアと413,000人のブルネイ、名目国内総生産(GDP)9,840億米ドルのインドネシアと120億米ドルのラオス、国民一人あたりの名目GDPが56,000米ドルのシンガポールと1,000米ドルのカンボジア、国際商取引額が7,760億米ドルのシンガポールと50億米ドルのラオス、そしてFDI流入額が720億米ドルのシンガポールと5億6,800万米ドルのブルネイという国々によって構成されているのである。(全てASEAN事務局による2014年の数値)

TPPはASEAN加盟国間の既存の格差を更に増大させるであろう。なぜなら、ASEAN加盟国のTPP参加国は、上記のような経済指標を他のASEAN加盟国を犠牲にすることで改善していくことが考えられるからだ。さらに、TPPは経済運営における格差も広げる可能性がある。

TPPが(経済指標について)高い水準を求めているため、ASEAN加盟国のTPP参加国は自国の経済運営力(より良い規則・規定の制定、より効率的な生産など)を高めようとするだろう。

これらの国はASEAN加盟国のTPP不参加国と異なり、経済運営力を高めなければならない理由があるので、より多くの資源を充てることになる。

TPPが乱し得るASEAN加盟国間の調和

ASEAN経済共同体を設立することの表立っていない理由の一つに、ASEAN諸国が域内において他のASEAN加盟国を出し抜いて自国の経済行動計画を追及することがないようにするため、というものがあった。このように、ASEAN経済共同体は結束力のある交渉を通じて、ASEAN非加盟国と係わる貿易と投資を強化しようとしている。

ASEAN諸国は、個々として行動するよりも集団として他国と交渉することについて異論はない。そしてその過程を通じて、ASEANは中心的役割を維持すべきである。

しかし、TPPがASEANをTPP参加国と不参加国の2つに引き裂き、調和が壊れつつある。この分裂は、域内の集団的な経済的利権を犠牲にして、個々の経済的利権を追い求めるASEAN加盟国が現れてくる、という当初の懸念を再燃させるかもしれない。

例えば、2015年4月にジャカルタで開催された世界経済フォーラムの東アジア会議で、カンボジアの首相であるフン・セン氏は以下の通りに述べた。「私たちはなぜTPPが10か国のASEAN加盟国を含めなかったかについて、再考すべきである。半数のASEAN加盟国を仲間にし、半数のASEAN加盟国を蚊帳の外においているTPPを協定した目的、真の意図は何なのか?」

フィリピンの財務大臣であるセサール・プリシマ氏は、以前、先述のフン・セン氏の陳述と同様のことを述べた。「もしTPPのような高い質を伴う協定を他国と締結する時に後れをとると、特に統合の途中段階の状況では、諍いが生じやすい。」

増し続けているASEAN指導者たちの失望は、ASEANの統合が危険にさらされていることに対する警鐘なのである。

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参考:http://www.thejakartapost.com/news/2016/01/06/how-tpp-can-disrupt-asean-economic-integration.html

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