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TPPがタイにもたらす影響とは? 参加是非を巡る論点をレポート

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環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)はカナダ、メキシコ、ペルー、チリ、オーストラリア、ニュージーランドなどを含んだ12ヶ国間で交わされるアメリカ主導の貿易協定である。アジアでの参加国は日本、シンガポール、マレーシア、ベトナム、ブルネイであり、TPP参加国の経済は世界全体の国内総生産(GDP)の約40%と、世界貿易の40%を占めている。

この協定には、参加国間での物品貿易の関税引き下げだけでなく、投資やサービス貿易の障壁撤廃も含まれる。さらに、参加国は(医薬品のデータ保護等の)知的財産、政府調達、eコマース、労働基準といった貿易に関する問題にも合意しているのだ。

今回はタイのメディアによるTPP参加の是非を問う記事をお届けする。

タイへの影響

TPPに参加する12ヶ国で、タイの貿易全体の40%及び毎年タイに流入する直接投資(FDI)の45%を占める。だが、現在タイはアメリカ、カナダ、メキシコを除いたほとんどのTPP参加国と自由貿易協定(FTA)を交わしている。カナダとメキシコに対するタイの輸出比率は全体の1%以下で、一方この両国からの年間の直接投資(FDI)は2%以下である。他方、アメリカに対する輸出比率は輸出全体の8%で、年間の直接投資も8%である。

TPPに参加しない場合に予想される最も大きなタイへの影響とは、アメリカ市場において参加国との競争が激しくなることだ。

輸出業者が懸念しているのは、タイ製品への関税が他の参加国より高くなるために、アメリカへの輸出品が他の参加国の製品と比べ、魅力的な価格ではなくなる可能性があるということだ。こういった問題がいかに深刻であるかを考察する際に、衣料品、農産物、自動車といったアメリカに対するタイの主な輸出品に強く焦点を当てなければならない。

TPPが発効すると、アメリカへのタイ製の衣料品や特定の農産物はマイナスの影響を受ける可能性が高い。アメリカ市場で、この様な製品に課される関税はTPP参加国間ではゼロになるからだ。

現在、ゴム手袋、男性用ニットパンツ、女性用下着、綿のベビーニットといった、タイからアメリカへ輸出される主な衣料品に対する関税率は5.7~21.6%である。

また、マグロの加工食品、砂糖漬けの野菜、果物、ナッツ、そして他の加工食品等の主な農産品に対しては8.4~11.7%である。この様なタイ製品への高い関税率をふまえると、アメリカ市場における価格競争力は、TPP参加国のベトナムやメキシコと比べて低下する可能性が高い。他方、タイ製の自動車及び、自動車部品といった輸出製品への短期的な影響は限られている。

その理由に関して以下の4つが挙げられる。1)TPPでは自動車への関税率の引き下げは30年かけて徐々に行われる(マレーシアやベトナムからの輸入税は10年かけてゼロになる)。2)タイ製の乗用自動車に対するアメリカの輸入税は2.5%と低い。3)タイ製の小型トラックに対するアメリカの輸入税は14.5~25.0%と高いが、タイの年間でのアメリカへトラック輸出量は少ない。4)TPP参加国間のローカルコンテント要求の45~55%は、タイの日本に輸出する自動車部品にあまり影響することはない。なぜなら日本は、およそ同じ比率のローカルコンテントを、アメリカへ輸出する自動車製品に対して用いているからだ。

タイのいくつかの企業が抱く別の懸念というと、ベトナムやマレーシアに比べ、タイがアメリカからのFDIに対して魅力的な投資先でなくなることだ。

参加国間での投資保護が強化されると、タイ以外の、TPP参加国に対するアメリカからの新たな投資がいくらか強まる可能性がある。これは、主にエレクトロニクスといった製造業に当てはまることである。サービス産業に関しては、タイのサービス産業の多くにアメリカの企業が既に投資可能な条約を、タイはアメリカと交わしている。

他方で、TPP参加国はより強化された知的財産の保護やILO条約に従う労働基準の施行に同意しているのだ。こういったことが参加国間で関連するビジネスコストを上昇させ、製品やサービスの価格競争力を低下させるのだ。

タイはTPPに参加すべきか

タイがこの先TPPに参加するかどうかは、財政的な面と社会的な面の両方から、タイへの国益を慎重に分析することにかかっている。また重要な問題は、どの様に損失を最小限にするかだ。

もしタイがTPPに参加しない場合、損失を負うのはアメリカへの衣料品及び、特定の農産物輸出業者や、アメリカからのFDIを拠り所とする産業、そしてこういった産業で働く労働者達である。その他のデメリットというと、タイにおける労働者達がILOの労働基準下で働くのと同じ様には、十分に保護されないということだ。

こういった損失を最小限にするのは可能だろうか。また、タイは、衣料品や農産物の新たな市場を見つけることは出来るのか。タイの企業は、衣料品の様な労働集約型産業を、カンボジアやベトナムに移すことは可能なのか。TPPに参加しない場合にも、労働者を保護するために、タイはILOの労働基準に対するコンプライアンスを向上することは出来るのか。

一方もしタイがTPPに参加する場合も、医薬品に関するものを含む、参加国の知的財産権保護に応じるにあたって懸念されることがある。それは、タイの医薬品が現在よりも非常に高額になる可能性があるということだ。

また、サービスセクターでのビジネスを持続させることを考えると、TPPに参加した場合、非常に保護されたサービスセクターを参加国とのより大きな競争へと開放することになる恐れがある。

いずれにせよ、個人や企業のレベルだけでなく、むしろ国家レベルで損益を十分に考慮しなければならない。TPPの下であっても、そうでない場合でもサービスセクターを開放することでもたらされるものとは、より高い生産性や質、そしてサービスの低価格化である。

従ってこの様な開放により、さらに高まった競争と相対する可能性があるため、サービスセクターで現在ビジネスをしている企業にとっては損失となるかもしれないが、国家全体としては利益になるだろう。

同様に、知的財産の損益に関しても、結論に至る前に、総合的な面から考慮される必要がある。他の全ての貿易協定の場合と同じ様に、利益を享受するものもいれば、損失を負うものもいる。

貿易協定に参加することで得られる成功から確かなのは、大多数の人々に利益が生じる一方、敗者は損失の最小化を適応させ、後になって利益を得ることさえあるかもしれないということだ。

 

参考:http://www.bangkokpost.com/opinion/opinion/775785/what-the-tpp-pact-means-for-thailand

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