東南アジアのマングローブが消えゆく理由―ヒントは普段の食にあり
マングローブが果たす重大な役割とは
マングローブは世界各地で多くの熱帯あるいは亜熱帯地域沿岸に生息している。それは陸と海にまたがり様々な生物に不可欠となる生息環境を与え、我々人間にも重要なエコシステムとして機能している。また、世界中で排出される高濃度の二酸化炭素をいくらか吸収する役割も果たしているのだ。
しかし、マングローブは海抜の上昇と人々の流入といった二つの面から脅威に晒されている。また今日発表されている米国科学アカデミー紀要(PNAS)の新たな調査内容は、土地利用の変化が東南アジアのマングローブに及ぼす影響に関するものだ。それによると過去10年間で、主に水産養殖や稲作、オイルパームプランテーション等が原因で、東南アジアに生息するマングローブの内2%が失われたのだ。
マングローブは非常に多くの点で重要なものだ。魚の生息環境となり、海洋の食物連鎖を促進する。次に、そこから得られる漁獲から、収入や食糧といった面で人間が恩恵を受けるのだ。また沿岸部を安定化し、浸食を防ぎ、ハリケーンや津波のダメージを軽減する。さらにPNASの調査から、他の熱帯雨林の4倍の二酸化炭素を吸収することもわかっている。それらを踏まえると、世界規模でのマングローブの金融価値は1ヘクタールにつき毎年194,000USドルに上ると考えられている。
だがその多くは既に破壊され、残っているものも危険な状況にある。歴史的に推定すると、世界全体におけるマングローブの3分の1以上が1980年代から1990年代の間に失われたようだ。今なお残り続けている内の16%も、消滅の危機に瀕している。
マングローブ破壊 その理由とは?
東南アジアのマングローブがどれ程の速さで失われつつあるか、またその原因をより詳しく理解するために、シンガポールとイギリスの大学の研究者達は衛星からのデータを分析し、その地域においてどのように土地利用が変化しているかを特定した。
彼らの調査から、東南アジア全体に生息する内の2%に相当する、100,000ヘクタール以上のマングローブ林が2000年から2012年にかけて失われたことがわかった。期間を現在まで繰り上げて調査してみると、減少率は年間で約0.18%となり、これは以前に測定した値に比べて低い。だが彼らが言うには、数値の低下は単に現在の衛星画像の解像度が上がったためだそうだ。
最もマングローブの減少が著しいのはミャンマー、インドネシアのスマトラ島とボルネオ島、そしてマレーシアであった。一方、タイ、ベトナム、フィリピンの減少率はそういった地域より比較的低いものであった。
マングローブが破壊される最大の要因は、水産養殖、稲作、そしてアブラヤシ(パーム油の原料)プランテーションといった産業であることが明らかになっている。中でも、(魚類もしくは他の海洋資本などを含む)養殖業が最も被害を及ぼしていたのだ。東南アジアで伐採された内の30%がこれによるものであり、インドネシアにおいても消失したマングローブの内約50%は養殖が原因となっている。
またミャンマーにおいては、伐採要因の中で88%を占めた稲作についても指摘されている。ミャンマーでの稲作の拡大やインドネシアの水産養殖は、世界最大の養殖国を目指すインドネシア、そして食糧安全保障の向上を図ろうとするミャンマー両国の、政府主導によるものであると研究者達は指摘する。
その上、アブラヤシプランテーションもマングローブの伐採を助長しているのだ。特にマレーシアとインドネシアのスマトラ島で行われた伐採は、高い水準でこの産業が原因となっている。研究者が警告しているのは、マングローブは陸と海の両方に生息するため、土地を利用した生産業が実施される際に甚大な被害を受けるということだ。つまり、産業的侵略から保護されていないのだ。
パプア州の比較的安全とされているマングローブ林もオイルパームプランテーションに取って代わる危険性が高い。
今後の展望
「2015年5月に、インドネシアの大統領Joko Widodo氏はメラウケ総合食糧・エネルギー用地の一環として、パプア州に新たな農業地帯を3年以内に1,500,000ヘクタール開発すると発表した。この総合農地開発計画は、食糧とエネルギー保障の安全を増大させ、パプア州の経済成長を刺激しようとするものだ。我々の分析から、2000年から2012年の間、マングローブが豊富なインドネシアのパプア州では、その減少率は低かったものの、メラウケにおける様な土地開発計画はこの先、重大な環境的、社会的影響をもたらすだろう。」と研究者達はレポートに記述している。
彼らは、東南アジアのマングローブの破壊を阻止するために、政策介入が必要だと述べている。そしてこういった研究者の調査が、マングローブの状況や、どういった活動が多くの利益と共にマングローブを最も確実に保護出来るのかを政府が把握する手助けとなることも示唆されているのだ。