モンサントの買収:バイエルが候補先に挙げられた理由とは
モンサントはバイエルからの買収提案に代わる選択肢を模索しており、ドイツの化学製品大手BASFと農業事業買収に向けた交渉を開始したと米Bloombergが伝えている。モンサントは、今年5月、バイエルの1株122ドルの買収提示額が低すぎるとして拒否しているが、交渉は現在も継続しているとのことだ。農薬・種子市場は「ビッグ6」と呼ばれる大手6社(ダウ・ケミカル、デュポン、モンサント、シンジェンタ、バイエル、BASF)によって寡占状態が続いてきたが、いよいよこの全ての企業が業界再編に向けて動き出したと言える。
関連記事:バイエルがモンサントを6.8兆円で買収:農薬・種子業界再編を時系列で見る(9月15日更新)
【目次】
- ビッグ6がM&Aを模索するそもそもの理由
- モンサントとバイエル、BASFの交渉内容の違いとは
- 各社のメリットとは
- 今後の行方は
ビッグ6がM&Aを模索するそもそもの理由
近年は穀物価格の下落やブラジル通貨安といった影響により、ビッグ6の企業の収益が落ちていた。それに伴い、こうしたM&Aによる競争力強化の動きが昨年から動き出した。M&Aによって見込まれるメリットは主に3つ。
- 1つ目は規模の経済が働くこと。農業資材の製造・物流・販売にかかるコスト削減が実現するのだ。昨年12月に経営統合を発表したダウ・ケミカルとデュポンの場合、農業部門だけで13億ドルのコスト削減を見込んでいるとのことだ。
- 2つ目はポートフォリオを補完できるということだ。例えば農薬と一口に言っても、殺虫剤や除草剤、殺菌剤など種類は様々だ。農薬が強い企業が種子事業を補填することもできる。また、これらグローバル企業においても、強みを持つ地域は異なる。こうした地域ポートフォリオを補完することもできる。今年2月に中国企業に買収されたシンジェンタは、当初モンサントから買収提案を受けていた。しかし、モンサントもシンジェンタも、強みを持つのはアメリカ市場であった。中国企業に買収されるとなれば、中国という大きなマーケットを取りに行くことが可能だ。買収提示額がほぼ同額だったのに対し、シンジェンタ株主はこうした理由から中国企業に買収されることを選択したのではないかとも推測できる。
※参考記事:【動向まとめ】大手農薬メーカー・シンジェンタの買収騒動
- 3つ目はキャッシュが手に入ることだ。事業再編によってビジネスの収益性に対する期待値が高まれば、株価が向上することで資金面でも余裕が生まれる。また、買収による再編の場合には、被買収側には株の売却益が手に入る。これにより、資金を事業投資に回すことで、ビジネスを拡大することができるようになる。
モンサントとバイエル、BASFの交渉内容の違いとは
モンサントとバイエルの交渉内容は、既存のモンサントの株価にプレミアムを乗せた形で、現金対価で株価を売却すること。
一方で、モンサントとBASFの交渉内容は、既存のモンサントの株をBASFに譲渡し、対価としてBASFの製品ポートフォリオを得る、というものだ。
注意すべき点は、モンサントとBASFの場合、モンサントの株式とBASFの製品群の交換であるということであって、モンサントがキャッシュでBASFの製品群を買うこととは異なるという点である。モンサントに対するバイエル・BASFの事業再編の手法は、似ているようで実は全く異なったものなのだ。
各社のメリットとは
モンサントとしては自身の株を外部に放出することと引き換えに、先述した3つのメリットが得られることには変わらない。2番目のメリットのポートフォリオについて詳述すると、モンサントはもともと種子事業に強みを持つ企業。一方でバイエルは農薬に強みを持ち、BASFに至っては種子事業部門はなく農薬のみを扱っている。モンサント側としてはいずれにせよ農薬事業を強化することが可能なのだ。
一方でバイエルとBASF側のメリットは少し異なる。
バイエルはモンサントを吸収することで、大規模な事業体となり、1つ目と2つ目のメリットを達成できる。
BASFの場合は、もともと他のビッグ6の企業と比較しても農薬事業の収益は低い(化学製品という括りの場合は群を抜いているが)。従って、今回の事業譲渡によってモンサント株を取得し、他事業に自社リソースを割くという方向性であると考えられる。BASFはこれまでも、高収益かつ高成長が見込まれる事業を選んで注力することで、機能性化学品などで圧倒的な存在感を示しており、今回の提案も事業の選択と集中に向けた動きであると見られる。
今後の行方は
モンサントとBASFの交渉はまだ初期段階との報道がある。またその間にバイエルが新たな提案をする可能性もあり、今後の業界再編の動きには注視しておきたいものだ。
【農薬・種子業界のM&Aに関する記事】
・バイエルのモンサント買収:農薬業界の今後に迫る(2016年5月20日)
・シンジェンタ買収 中国におけるGMOへの影響(2016年2月11日)
・ChemChina(中国化工集団)がシンジェンタを買収(2016年2月6日)
・【動向まとめ】大手農薬メーカー・シンジェンタの買収騒動(2016年1月26日)
・デュポンとダウが合併:農薬業界に新会社がもたらす変化とは(2016年1月7日)