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シリコンバレーの農業ハッカソンに参加してみた

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20177月末にカリフォルニア州サクラメントで開催された農業ハッカソンに参加してきました。日本でも何度かハッカソンの参加経験があるので日本との違いと、入賞チームの成果について書いていきます。

Apps for Agと題されたハッカソンで、主催はUniversity of California (UC) 。UCやUSDA(米国農務省)からメンターが派遣されました。テーマはカリフォルニア農業の活性化。期間は金曜夜にチームビルディングがあり、日曜昼まで開発、その後プレゼンテーションを行いました。事前のコーディングやクローズなデータセットの利用は禁止というルール、オープンなデータセットの一例として、米国政府が進めているオープンデータポータルサイトのDATA.GOVの紹介がありました。(あんまり使ってるチームはなかった)

開発風景 (credit: Deema Tamini)

1.ハッカソンの違いについて
(1)参加者の目の色が変わる賞金
 参加者は60名程度とそこまで多くなく、農業という比較的ニッチな産業を対象に、大企業がスポンサーについているわけでもない。にも関わらず賞金総額は200万円近く準備されており、加えてクラウドサービスの無料券(約50万円分)などの副賞も準備されていた。これにより、農業外の領域からも技術力のある人を集めたり、開発やプレゼンテーションにかかる作り込みの真剣度合い、そして最後の追い込み力がかなり高まったように感じる。

(2)「何ができるのか?」「何がしたいか?」を問うチームビルディング
 賞金が大きいこともあってか、チーム選びとメンバー選びは双方向にシビアに行われる。特にチームに参加するにあたり「バックグラウンドはなにか?」「何ができるか?」「ハッカソンの経験はあるか?」と質問をされ、さながら面接を通過してチームに入ることになる。私は光栄にも農業マーケットの知識を買われてオファーをもらったが、手を動かしたかったので最終的にはジオプロセシング/アナリティクスの面で貢献できそうなチームに入ることとした。日本では面白そうなチームには簡単にジョインできたように感じるが、こちらではライトパーソンを選ぶ、個々人の役割を明確にしようとする意識が強いと感じた。

(3)ハッカソンのその後
 ハッカソンの後にサクラメントで開かれるビジネスコンテスト(このハッカソンと紐付いているものではなく別のイベント)への誘導があり、起業に向けた機会が流れとして整っていると感じた。終盤にチームメイトから「Aki (筆者) は起業するとしたらオンボードできるか?」と問いかけられ、参加者のもつ起業の意識を感じた。

 

2.入賞チーム+αの成果
 上位3チームについて概要を記載する。

(1)Dr. Green: アマチュア農家・家庭菜園向けのAIチャットボット
 1位に輝いたのはアマチュア農家の質問に回答してくれるチャットボットであった。土壌センサーとも組み合わせて回答の精度を高めている。画像認識や音声応答の部分はIBMWatson、Twilioなど既存のAPIをうまく活用して、実機で動くモバイルアプリとして実装しきっていたのが印象的である。シリコンバレーらしくインド系チームであった。
 サービスとして、個人的には日本で三菱総研などが着手し始めているサービスであり、あまり新規性は無いのかな、と思っていたが、審査員からは高く評価されていた。あとはチャットボットのQA対応の学習用データセットをどこから準備したのか気になるところである。

Dr. Greenのプレゼンテーション(Credit: Donna Valadez)

(2)Greener: 病害虫診断のためのAI画像診断アプリケーション
 次点は葉を撮影することで病害虫の画像診断をしてくれるアプリケーションであった。徹夜で学習用のデータセットを撮影して集めてきたとのことである。(i)のチームもそうだが、外部APIをうまく利用しながら一晩で実機のモバイルアプリを完成させている技術力が光る。
 サービスとして、こちらも日本ではNECなどが着手している領域であり、新規性には欠けると感じたが、同チームによると州内に競合はいない、とのことであった。

(3)The Farm Table: グリーンツーリズムの企画支援ならびにマッチングアプリ
 3位は農家が簡単にグリーンツーリズムを企画でき、その企画に対して参加者が簡単に申し込みできるようにするサービスである。わかりやすいビジネスモデルと「ミレニアル世代は食べ物にストーリーを求める」という自分たちを主役にした訴求要素、新たな市場を創り出すという点が評価されたようだ。

(番外)Fruitville: 市街地での庭先農業ネットワークの立ち上げ支援
 蛇足だが、筆者チームのアイデアについて。多くの家が芝生つきの庭をもち大量の水(水利用の35%!)を消費していること、一方でフードデザート(食の砂漠)と呼ばれる低所得者層を中心に生鮮食品へのアクセス困難がカリフォルニアでも社会問題化していることに注目して、地域として持続可能な庭先農業を実現するサービスを考えた。キモは庭先農業の発想がない人に対して、衛星画像・気象データなどから栽培面積・作付品種・作業量と売上/コスト目安など、必要な情報を一式示して取組を喚起するというものだ。ただマネタイズ(種苗資材屋とつなぐ際の手数料・域内流通のマッチングにおける手数料・広告手数料)が弱いと評価され、受賞には至らなかった。

市街地での耕作可能地の推定(解像度3m衛星画像での植生密度計算。赤い部分は植物が多い)

 個人的にはカリフォルニア限定で3m解像度4バンドの衛星画像がフリー提供されていたり、それに重ね合わせるデータも自治体から公開されていたりと扱えるデータが非常に多いことや、意外にもスクラッチで作るのではなく企業のAPIを積極的に活用する文化であることなど、新たな面に触れることができ、収穫の多いハッカソンであった。

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