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タイと日本を「日本語教育x農業」でつなぐ。日本語講師・柳原大作氏インタビュー(後編)

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後編からは、柳原氏のプロジェクトをサポートするソムチャイ・チャカタカーン氏にもインタビューに加わっていただいた。

ソムチャイ氏はタイの農業高専高校を卒業後、東京農業大学にて9年間農学を学び、博士号を取得。その後タマサート大学の教員となり、多数の学生を日本の農業実習へ送った。タマサート大学副学長を務めた後、現在柳原氏のプロジェクトを支援している。

日本とタイの農業を知るソムチャイ氏の考える日本の農業、そして柳原氏の今後のビジョン、さらに今後の日本の外国人農業実習制度のあり方について、後編ではお話ししていただいた。

※前編はこちら

タイを支えるのは農業

(ソムチャイ氏)
私は生まれてからずっと農業、日本でも9年農業勉強して、タイに帰ってきてからもずっと農業見てきてるんです。それでタイの文化的なところ、宗教的なところを考えた上で、日本とタイの農業は本当に近い。農業の考え方がね。技術的にもそれほど遠くない。機械的にも、そこまで使わなかったり、タイでも応用できたり。欧米は何百ヘクタールの面積とかね、飛行機みたいなもの使って農薬撒いたりね。そういった農業はタイでは応用できません。

タイは今農業人口が40%未満になったんだけど、あとは工業なんですよ。工業っていうのはタイの技術ですか?タイのノウハウですか?っていうと全然そうではない。海外からの資本ですよね。

じゃあタイの賃金が上がっていった中で、工業がどこか他の国へいっちゃったらどうするの?ということです。農業もダメ、工業もダメ。そうすると、この国を支えていくのは何?というと農業なんですよ。でも今(農業の占める)GDPは10%なんですよ。本当にこの国は農業なの?って思います。

私は「人の鼻を借りて呼吸する経済発展」って言葉を使っているんですよ。日本が1本、欧米で1本ってね。自分の力じゃない。この国は何が適するかというと農業なんですよ。農業大国ってのも、もう嘘ですよ。もう崩れてます。僕が柳原先生と手を組んだのは、同じ考えを持っているからですよ。人を育てようねって。僕の専門は農業だし、この国を支えていくのは農業だし、じゃあこれは命かけてでも若者を育てていこうと。

(柳原氏)
工業ってのは単純労働が多いですよね。結局そこに人いなくたって、機械さえ動いていれば、物は作れるわけです。でも農業は違うということが僕が言いたいことです。農業っていうのはやっぱり人の手や管理がないと作れないものづくりだと思うんです。ってことはそれは単純労働ではないですよね。

ソムチャイ氏の考える、タイから見た日本の農業

(ソムチャイ氏)
この前私は三重県の鳥羽にいって講演会してきたんですけどね、「アジアから見た日本の農業」ってタイトルで。日本の農業は日本国内だけで考えていたらもう失敗です。中国がどんどん日本に農作物販売して、日本の農業をどんどんダメにしてしまう。かたや日本の農業を若い世代がやらない。大学で実験する人はあふれてる、でもそれが農業につながるかっていったらわからないですよ。

いま一時的に農業ブームかもしれないですけど、実際に田舎行って農業やるかどうかわからない。じゃあ日本はなんで工業だけが世界出て、どんどん物作って販売するのか。トヨタ、ホンダ、ソニー、キャノンだってもう日本で作ってないじゃないですか。みんな海外じゃないですか。なんで日本の農業は工業を見習えないのでしょうかと。

例えば、日本人は寿命が長いから、60歳になったらじゃあ息子にまかせるよと。お父さんは第二の人生のスタートするよと。海外に出て、実際にお世話した実習生とタイで農作物作ろうと。作ったものを日本でなくてASEANに売ればいいじゃないかと。そういう考え方を日本の農業は持っていないと、これから日本の農業はもったいないものになってしまうと。だからAEC(ASEAN経済共同体)をうまく使って、日本の農業技術を使ってASEANに売る。

いい物を作って高いから買えないって時代ではないですよ。中国だって、日本のイチゴ1個150バーツ(約480円)だってすぐ消えちゃいますから。ぶどうなんかも1キロ600バーツ(約1920円)とかでもすぐ売れます。そういうお金持ちがいるわけですから、そういう人たちに物作って販売したらどうかと提案してきたんですよ。

もうちょっと世界は広いっていう感覚を日本の農業は持たないと、日本の農業は日本で作って日本国内で売って日本人に食べてもらうってだけじゃダメなんです。そのためにこの実習生は日本の農家さん、日本の農業の右腕左腕になってくれるんですよ。そうするとwin-winじゃないですか。日本の技術はものすごい高いからみんな欲しいんですよ、誰でも。するとまた新たな日本の農業が生まれるんじゃないかという提案をしてきたんですよ。日本国内で収めるのは限界です。

(柳原氏)
二極化しているんだと思います。6次化推進や農地を拡大しようと意気込む一方で、もうこれで十分と引退を考える農家さんが増加している。農業やっている世代っていうのは40代が一番若い。跡継ぎがいないんですよね。それで農業強くしましょうって言ったって、もう頑張れる世代じゃない。だから日本はもうこれでいいってことで収まっちゃう人が多いんです。あとは若い人がどれだけ頑張るかですよね。

外国人労働者と日本の農業

—いま日本では外国人労働者を入れるべきだとの議論がなされています。ただ一部だと思うのですが、人権損害といった話題も報告されています。これについてどうお考えですか?
(柳原氏)
それは日本人のせいです。人が人として扱わないで仕事をさせているから事故が起きていますね。この仕事が自分の天職、本職だよって思う方の職場で人が足らないから、その職を極めたいとする実習生が欲しいってことじゃないと問題が起きてしまうんですよね。

ただ人が足らない、日本人がやりたくない仕事を外国人で補おうとするから人権損害が起きてしまいます。農業以外の分野にも外国人送り出すこともあるんですが、自分のやりたいことじゃないと渡航してから可哀想なんですよね、それ本当にこれがあなたが学びたかったことなの?って。とりあえず自分の家を豊かにするために、たった3年間でもいいと思うかもしれない。でも僕が聞くのは「あなたの夢って何なんですか?」ということです。ここの学校に入って日本語勉強したいですって来る人で、夢や目標がない人は入学させないんです。

(ソムチャイ氏)
夢を持つことさえできない子供たちにどうやって夢を持たせるかっていうのが大きな課題ですよ。もう一つはね、タイ国としてね、彼らが帰ってきた時になんらかの受け皿が欲しいんですよ。日本にいって熟練された技術を身に着けた種が、この国で花咲かせられないともったいないんですよ。種は向こうで発芽して、枯れちゃうんですよ。もったいないじゃないですか。

—日本の農業における外国人の受け入れ体制について、どうお考えでしょうか?
(ソムチャイ氏)
受け入れ先がお世話が上手な農家さんの所もありますけど、20%くらいはそうでない農家さんもいます。運の善し悪しがあるんです。タイの言葉で「狭いところは住める。狭い心は住めない。」って言葉があるんですよ。厳しさ社会でも愛情は持っていて欲しいですよね。

(柳原氏)
タイの先生っていうのは厳しいんですよ。だからタイの子たちは人の話に耳を傾けるんです。仏教ですからね。厳しいのは別にいいんです。だから日本人もその国の文化習慣の違いを理解してあげることが必要だと思います。タイには日本ほど挨拶する文化がありません。「昨日はありがとうございました」なんて、昨日のことまでありがとうとか言わないんですよ。それなのに「あの子はありがとうも言えない。」と言われてしまう。日本側が上から目線になってしまうことで、傲慢になり、事故になってしまうんです。

(ソムチャイ氏)
3年後の彼らの幸せのために指導をして欲しいですね。極論を言ってしまえば、彼らが日本が好きだと言って帰ってきてくれればそれで十分なんです。

柳原氏のビジョン

日本の農家も増やしたい

(柳原氏)
彼ら(タイの子供たち)はみんな農業を勉強してきたんです。僕はイチゴ作りたいです、酪農やりたいですって言ってくれれば、その農家さんも紹介できる。これやりたいですって相談してきた学生にはそれに合う機会を与えるっていうのが一番やりたいことです。

やっぱり日本の農家さんもどんどん増やしていきたいですね。日本の農業もどんどん担い手が少なくなってる。若い子も農業始めようとしているけど、さっき言った日本語教師と同じで続かない。というのは、島根県もそうなんだけど、地方に住むだけで補助金がもらえる。農業始めると助成金がもらえる。日本人でも実習生として田舎に行って、資本をもらって、辛くなったら失踪していく日本人が増えてるんです(笑)。

(ソムチャイ氏)
先日僕も講演会してきた時にこの事業(農業実習生の日本への送り出し)の話をしてきましてね。お金もらって日本人がいなくなっちゃうって話聞きましたよ。

(柳原氏)
よく日本側は、外国人だから、厳しい事言ったり、環境に合わなかったりしたらすぐ逃げて大変なんだよとか言うんですけど、日本人も然りだと思うんです。日本人も忍耐力がない。世の中もっと楽に生活できるようになっているから、辛い事があったり嫌な事があったらすぐ辞めてしまう。無責任な日本人も増えてきているんです。

日本人より、実習生の方がよく働くこともあります。懐いてくれるのも外国人だし。しっかり仕事してくれるのも外国人。やっぱり補助金もらって新しく農業始めようと思っている若い日本人の方がやっぱり弱音を先に吐いちゃうんです。

日本から帰ってきた子供たちと観光農園を

(柳原氏)
勉強したいけどお金がない、でも自分の学校で日本語を学び、日本の厳しい社会で揉まれて帰ってきて、自分の事業を始められるような道筋を作るのが僕の仕事です。

仕事をしてお金がもらえているんだったら何でもいい。って思っている人は成功しません。必ず3年後にこういうビジョンがあって、こういう目的があって、これをするためにどれだけお金が必要かっていうことを分かった上で、しっかり修行をしてお金を貯めて帰ってくることがこれからの実習です。

この学校では料理を大事にしています。彼らは自炊ができないと、お金を持った時に簡単に買っちゃう。タイは基本外食です。20バーツぐらい(約58円)で買えるから買っちゃうんです。でもそれと同じことを日本でやっちゃうとねぇ。

行く前も帰ってきてからも貧乏じゃしょうがない。だから当番制で、自分が食べられる程度のご飯は作れるようにしなさいねと言っています。

—研修生が日本でもらえる賃金と言っても、そこまで多くないですもんね。
(柳原氏)
最低賃金です。だからとりあえずできる範囲でお金しっかり稼ぎなさいと言っています。だから忍耐を強くしておかないと、お金がなくなってやっていけない。我慢強い子じゃないとダメだということを教えてから送り出しているようにはしていますが、我慢できる子もいれば、そうでない子もいます。

だから僕らが今やっているのは、お金を使ってしまうのが怖いなら、給料もらったらすぐ送っちゃえばいいって言っています。お父さんお母さんに、これ自分が稼いだお金だからこれで農地をちょっと拡大しておいて、この木を買って植えといて、牛飼っといて、牛の小屋建てといて。それやって3年間経って帰ってきたら、見たことないような農園が、自分の家の裏にできている。

タイで稼いでお父さんお母さんに送ったってそんなの微々たる物。でも日本の資金力があればすごいいい農地だって作ろうと思えば作れちゃいます。でもまあお金の使い方は大変ですよね。

それで自分に何ができるかというと、一人でできないんだったら一緒にやろうよっていうことです。うちは日本語学校だけど、日本語教育以外に何ができるかというと、彼らと一緒に農業することもできます。それで、日本から観光に来たい人がいるなら、この子たちは日本語が話せるから観光ツアーもできます。観光でもただの観光じゃなくて、彼らの農業を見てもらう。そうすると観光農業ですね。

タイでできることといったら、食べることか遊ぶこと。だったらもっといいものを見て食べてほしいってことで、観光農園をやりたいと思っています。うちは人も作るし、ものも作ります。ものを作るために人を作ればもっといい事業ができます。日本のようにお金持ちになれる農家を目指し、将来は彼らと一緒に観光農園をやるというのが夢ですね。

 

※柳原氏の日本語学校では、日本語教師兼、タイと日本での農業に興味のある日本語教師を募集しています。以下のURLからご連絡ください。
はなまる日本語学校URL:http://www.hanamaruschool.com/jp/

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