アメリカAgtech市場に影響しうる、トランプの4つの政策
Editors Note: This article was originally published on AgFunderNews, the online publication of AgFunder an investment platform for food and agriculture technology.
今年のアメリカ大統領選挙の候補者2人には、今回の選挙活動の中で、ほとんど共通する政策がなかった。しかし数少ない共通点といえば、農業についての政策がほとんどなかったということだ。
大統領選で農業に関する論評が少ない中、(農場の将来性に関するQ&Aでさえ希薄な答えしか取り上げなかった)ドナルド・トランプ氏は地方での選挙活動に長い時間を費やし、結果として選挙活動にプラスにはたらいたのである。
例えば、アイオワ州党員集会でトランプ氏は、トウモロコシ農家に支持されるエタノール補助金を行うことを公表したとBloombergは報じた。また彼は8月に、地方投票者のご機嫌取りのため64名の農業アドバイザリー委員会を任命した。
Bloombergの記事によると、トランプ氏の勝利の鍵である地方の投票者も同様に、彼は自身の勝利を手助けしてくれる人々を好都合だと思っているのだと、ワシントンD.C.にあるコンサルティング会社 World Perspectivesのチーフエグゼクティブオフィサーであるギャリー・ブルメンタル氏は語る。またブルメンタル氏は、営農集団はトランプ氏の言う全てに反対しているが、トランプ氏は人々が支持する「人々の暮らしから政府を遠ざける」という訴えを持っていると言う。
その間、食品会社はトランプ氏による政治がビジネスにどのような影響を与えるだろうかと複雑な心境を抱いていた。The Wall Street Journalの報告によると、海外貿易を制限しようとするトランプ氏の兆しは、ケロッグやペプシなどの大手食品会社の株の安売りを引き起こした一方で、規制が緩和されることを当てにしてレストランチェーンの株は高値とされた。
選挙やトランプ氏の政策、公示を詳しく扱う評論家やメディアの報道を扱ううちに、Agtech市場に良い面でも悪い面でも影響を与えるであろう4つの主な政策にたどり着いた。
しかし、オランダの金融機関ラボバンクのアナリストは最近こう言っている。「トランプの政策は明確には定義されていないが、選挙活動中の声明では今までの政策とは全く異なったものが提案された。この時点での市場において確かなことはなにもない。」
1. 農務長官の任命
アドバイザーであるコンサルタント会社のアラベラ氏によると、農業の盛んな州の現職及び元知事の数名を農務長官の候補にあげたと、米政治メディアPoliticoは報じた。食農分野での経験がないことから、トランプ氏は自分の選んだアドバイザー達に頼る必要があるため、その任命はよりいっそう重要となる。
候補者名簿にはカンザス州知事のサム・ブラウンバック氏、アイオワ州知事のテリー・ブランスタッド氏、テキサス州の現職農務長官のシド・ミラー氏が挙げられている。興味深い事にその記事によると、AgFunderNewsが今年初めに取材した農家のキップ・トム氏までも候補者にあがっている。
トム氏はAgtechのアーリーアダプターで、いくつかのスタートアップに関わってきた。彼が任命され、有益な政策を行い、エコシステムを支えればAgtech業界にとっては良い知らせとなる。
政府によるAgtechのスタートアップ支援には様々な方法がある。アーリーステージのスタートアップや投資会社を資金面でサポートをしたりといったところだ。USDA(米農務省)もまた営農集団とイノベーターたちのコミュニケーションを促進させ、テクノロジーが確実に農家のニーズに合うようにサポートすることができる。テクノロジー領域のイノベーターたちによって、農業を魅力的で収益性の高い産業として成長させることは、米農務省ができる事とはまた異なる。
2. 移民排除
アメリカの有権者の中で、トランプ氏の入国管理に対する意見とメキシコ国境に壁を建設する計画について知らないという人はいないだろう。壁が出来るにしろ出来ないにしろ、この問題は彼の政策の中心であり、おそらく入国管理の規制強化は彼の政策の中でも優先度が高いだろう。
Farm Futuresによれば200万人いるとされる不法就労者や、それより遥かに多い数の合法的に入国し働いている人々がいる農業セクターにおいて、明らかにインパクトを与えるであろうとのことだ。
特に西海岸に言えることだが、アメリカの農産業においては既に労働者不足が問題となっている。また、最低賃金を毎年引き上げると同時に農家への残業手当を提案するというカリフォルニア州の最近の法案により、営農に悪いインパクトを与えている。
移民制限は追加的労働を増やし、労働効率を高め、労働者に取って代わりさえする技術は、ますます重要で需要のあるものとなる。
ロボット化と自動化は明確な例であり、Blue River TechnologyやNaio Technologyのように、すでにいくつかのスタートアップの事例もある。
しかし、ロボットのコストが下がっていく一方で、実際に農場に導入するには大概まだ高すぎる。我々はそれが農家にとって採算の取れるものとなるまでにあと3年かかると考えている。
それまで既存の設備の自動化はビッグデータ分析と精密農業によって速度を速めつつ、営農集団への拡大を期待する。
3. 規制緩和
トランプ氏の農業に関する発言の多くは規制を緩める必要性に関するものであり、これが農業者のコミュニティーや一部の食品会社の間で人気となった。
8月の終わりにアイオワ州デモイン市で行われた同州上院議員ジョニ・エルンスト氏の毎年恒例のロースト・アンド・ライドという募金活動の場で、再生可能燃料基準によってトウモロコシ原料のエタノールを守るだけでなく、アメリカの水制度のような仕事に大きな負の影響を与える規制は取り除き、家族規模の農家に対しては15%の税金控除を行い、いわゆる「死の税」は削減すると話した。ちなみにPoliticoによると、これは彼の“選挙遊説の中で最初で唯一の実質的な農業への言及」であるとのことだ。
同じイベントで、彼は米国環境保護庁を批判し、保守的なリバタリアンの非営利シンクタンクCompetitive Enterprise のEnergy and Environmentのディレクターで気候変動懐疑論者であるマイロン・エベル氏をその機関の改革をけん引する者として指名した。
「我々は否応なしに家庭や家族経営の農場に介入するEPA(経済連携協定)を終わりにする。」とトランプ氏はデモイン市で話したという。さらに「EPAがやっていることは不名誉なことだ。皆さんに多くの費用と時間を負担させ、多くの場合規制によって農地を失う以外に何の役にも立たない多くの規制を撤廃する。」と続けた。
農場における環境的な規制緩和は、短期的に見ると農家の人々の生活を楽にするが、水や化学物質のような環境に影響を与えるようなものをより精密かつできるだけ少ない量を農地に与え、そして通常はそれらの外部環境への影響を測定することのできる、精密農業テクノロジーの導入による農家たちへのインセンティブが小さくなる。
水の管理のテクノロジースタートアップのCEOは、これについて心配はしておらず、ほとんどの水に関する規制は州レベルのもので、新しい合衆国のリーダーは各州の方向性についてそれほど大きな影響を及ぼさないことを指摘している。
The Wall Street Journalによると、バイオテクノロジーの分野と遺伝子組換え作物を取り扱う食品会社は、トランプ氏の当選で喜んでいるかもしれないという。トランプ氏はバイオテクノロジー産業を支援しており、農家や専門家は、彼は従来の遺伝子組み換え作物使用時にはラベルを貼るというルールを好まないようだと話している。それは食品メーカーはそのようなラベルは科学をけなしているように感じ、さらに食品の価格が下がってしまうためだ。食品メーカー協会は声明の中で、トランプ氏の統治は科学に基づく法や食品関連の規制や政策の助けになれる希望あるものだと言う。
EaterとSalonは、トランプ氏はFDA(米国食品医薬品局)の規制する範囲を制限する計画も示唆していると伝えている。つまり、食品安全に関する規制が緩和されることを意味する。だが消費者からの需要があり、規制に左右されない食の安全性とトレーサビリティの技術の成長においてはさして影響はありそうにない。
4. 貿易取引の再交渉
アメリカは世界一の農業輸出国であり、これにブラジル、中国と続いている。だが、現状と提案された貿易協定はトランプ氏の選挙活動中に非難を受けていた。
「貿易取引への非難はトランプ氏の選挙運動の要であった。トランプ氏は中国に対し報復関税を迫り、流通貨幣の市場操作に言及している。」とBloombergは報じている。
The Wall Street Journalは、NAFTA(北米自由貿易協定)やTPPについてもトランプはまた反対意見を持っており、メキシコに対しては貿易制限を課そうとしていると報じた。ラボバンクはTPPはトランプ政権下では承認されそうにないと考えている。
これらの協定を制限する事は、アメリカの農家や食品企業に大きな影響を与えるだろうと評論家は言う。
メキシコからの輸入品への関税は、メキシコ進出を予定しているハーシーやモンデリーズ・インターナショナルといった幾つかの食品会社に影響を与えるだろうとThe Wall Street Journalの記事の中で評論家パブロ・ズアニック氏は言う。
最近ジョージア州アトランタで行われたSustainable Ag Summitの代表者らは、貿易が彼らの最大の悩みであると言う。またラボバンクのアナリストによると、アメリカの農業貿易協定に関する何らかの変更は、国際市場価格や貿易の動きに大きな影響をもたらすだけでなく、アメリカの農業従事者のマージンにまで影響をもたらすだろうと見られている。
全米トウモロコシ生産者協会代表のウェズレイ・スパーロック氏はAgWebの記事に賛同した。「TPPは農家の収入をあげるために議会が今すぐできることの一つで、経済活動を生み出し、雇用を拡大促進させる。選挙活動の謳い文句では、アメリカの貿易計画を数年前に戻してしまった。さあ、正しい方向へ戻る大きな一歩を踏み出しTPPを可決しよう。」
農家の収入の低下は、新しい技術に彼らが投資するキャッシュが減っていく事を意味するだろう。その一方で、営農集団は彼らの土地から最大の生産量と採算性を取るために技術をより重要にさせることができるかもしれない。
上記のことすべてについては、時がたてばわかるだろう。上記の幾つかの政策は継続性のレベルにもかかわらず、トランプ氏は選挙活動において彼自身を矛盾させてしまった。一つの例としては、アイオワの人々が遺伝子組み換えのトウモロコシを食べ過ぎているとTwitter上で批判していたにも関わらず、のちに農業のバイオテクノロジーを支援していたのである。
トランプ氏が食農分野においてどのように影響し、何が議会を通過するかを本当に知るにはまだ早すぎる。しかし、もし我々がこれまでの彼の言葉を信じるならば、今後4年間で数多くの大きな変化があるだろう。
Link: https://agfundernews.com/4-possible-trump-policies-impact-agtech.html