“カーボンファーミング”は気候変動に対する農業の答えになるのか?
4月中旬、アメリカのエネルギー高等研究計画局(ARPA-E)は、アメリカ国内の農地の土壌の炭素貯留量の増加を目的とした、新たな投資機会を得たと発表した。
農業を含む土地利用では、耕起に伴って土壌中から大気に放出される温室効果ガスは、地球上の25%を占めているという。昨年合意した、地球の温度上昇を2度未満にするという国際的合意(COP21)に、化石燃料の使用量削減が鍵となっている一方で、こうした土地利用による温室効果ガス放出に対処しなければ、この目標を達成することは不可能だと考えられる。同時に近年の農業活動によって、天然の土壌中の炭素貯留量がかなり減少した。しかし土壌中の炭素にアプローチすることは、農業による温室効果ガスの放出を減少させることや追加で土壌中に炭素を貯留することができる。このように、植物の光合成の力を使い、炭素を土壌中に貯留する農業を「カーボンファーミング」と呼ぶ。
「土壌に炭素を貯留する」という表現に違和感を感じる人も多いかもしれない。そもそも土壌は、有機物、無機物の分解・変換の場であり、炭素循環の中心的な役割を果たしている。特に、農地土壌には、家畜排せつ物や稲わら、食品産業等から排出される有機性廃棄物等の有機物が絶えず供給される。このとき、有機物のかなりの部分は最終的に二酸化炭素、水、及びアンモニア等の無機物に変化するが、残りの一部は、難分解性の土壌固有の有機物である「腐植物質」となり、土壌中に蓄積されていく。炭素はこの腐食部質という形で土壌に蓄積される事になるのだ。
この記事では、「カーボンファーミング」に対するアプローチに迫ることにする。
ARPA-Eの研究イニシアチブROOTSは、作物が土壌の炭素貯留量を増加させられるように、近年の育種及び遺伝子操作の技術を用いている。30百万ドルを、土壌の炭素固定量能力を上げる8〜12のプロジェクトに投資する予定だという。ROOTSイニシアチブを通じて、ARPA-Eは土壌の炭素貯留量を50%向上、従来の農業からの窒素放出量の50%削減、さらに25%の水生産性(作物収量を生産に使われた使用水量で除した値)向上という、ハードルの高い目標を掲げている。農業セクターにおける気候回復の勢いもあった一方で、アメリカ国内の温室効果ガス放出量の合計は、正味10%の減少であった。
ROOTSは、根と土壌の相互作用のモデリングや炭素貯留の多い植物種の開発といった、先進的データ収集を行うプロジェクトに投資をする。ARPA-Eはアメリカの農地の87 %はこれまでのところ発展した炭素貯留量の特徴によって効果があるとみられており、アメリカの土壌の炭素貯留ポテンシャルを向上させることができると考えられている。
ARPA-Eは長年の課題に対してアプローチをしようとしている。その課題とは土壌の炭素貯留量と農業生産性のバランスである。高い農業生産量を誇り、低価格な食料価格や食料の安全性が以前より確保されている近年の農業では、土壌の炭素レベルが減少していた。土壌中の炭素は重要である。なぜなら土壌中の炭素は水や養分を保持し、土壌温度を制限するからだ。土壌中の炭素量の増加は干ばつや水質に関する問題、土壌中養分の管理、気候変化に対処することに寄与する。また、土壌中の炭素量は食料生産性向上につながるため、土壌の質はフードセキュリティーの観点からも鍵となる。
現状、世界で行われているカーボンファーミングのアプローチとして、不耕起栽培が挙げられるだろう。これまで述べてきたように土壌中には大量の温室効果ガスの原因となる炭素が貯留されている。こうした土地を過度に耕すことによって、温室効果ガスが排出されてしまっている。これは特に、近年の農業の機械化が進んだことがひとつの大きな原因であろう。そこで、不耕起または省耕起という手法で、農地からの温室効果ガスの排出を低減することができる。
カバークロップもカーボンファーミングの重要なアプローチのひとつだ。カバークロップとは、主作物の休閑期の農地や栽培時の畔の間に、土地を被覆するように栽培される作物のことだ。これ自体に収穫の目的はない。冬の田園にレンゲが植えられているのを見たことがある人は多いだろう。これもカバークロップの一種である。こうした植物の光合成によって、大気中の二酸化炭素が土壌中に貯留され、さらには土壌の肥沃度も向上する。
ここまでカーボンファーミングに関する様々な取り組みや手法を見てきた。地球温暖化に伴う気候変動の影響を最も受ける産業はおそらく農業だ。昨年も干ばつをはじめとした異常気象によって、農業生産が大きな打撃を受けた国も少なくない。世界のフードセキュリティーを保障するためにも、カーボンファーミングのような環境保全型農業が世界中で求められている。