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アメリカのAgTechバブルに潜む問題点から学ぶ、日本での課題

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情報科学やロボティクスをはじめとした先端技術を農業に応用させるテクノロジー、その最先端を突き進むのが技術大国アメリカだ。そんなアメリカ国内ではこうしたテクノロジーを”AgTech”と呼んでいる。2015年、アメリカ国内のAgTechを開発するスタートアップに対する投資額は27億ドル(Fortuneによるデータ)を記録しており、これは2012年の投資額の約5倍にも及ぶ。

AgTechの例としては、ドローン、土壌や作物に関するセンサー、収穫ロボット、植物工場など多岐に渡る。特に昨年はドローンがトレンドだった。2014年と比べると2015年の投資額は300%近く増加していると言われ、ドローンから得られる農場データの利用技術について多くの投資家が注目している。世界全体での農業用ドローン市場は現在4.94億ドルで、2022年までには36.9億ドルになることが予想されている。農業用ドローンに関する詳しい解説は次の記事を参照してほしい。

関連記事:先端農業技術のドローン利用と、その市場規模

一方で、肝心な農業分野の状況はというと、アメリカ国内での農業収益は3年連続で減少する見込みで、農機メーカーや種苗会社といった農業関連会社も減益となっている。短期的ではあるかもしれないがこうしたマーケットの下降は、新技術への投資を押し上げた。さらに投資額が増加した理由には、食糧危機や食糧安全保障への懸念や情報技術発展スピードの加速などといった様々な要因から、投資家が農業という産業にイノベーションの可能性を感じ始めたことが挙げられるだろう。例えば、Google会長のエリック・シュミットは、2014年に食糧危機という課題に対して”FARM 2050“というイニシアチブを設立し、AgTechスタートアップを支援している。

こうしたAgTechの隆盛は、いわばバブルと表現しても良いのかもしれない。アメリカのFortune誌はこうした状況に対し、懸念を示す内容の記事を投稿している。

同誌は、現在のAgTechの状況は行き過ぎていて供給過多になっているという。特に小規模農家は新しいプロダクトやサービスが次々と登場するのに困惑しているのが現状だという。機械のように実在しないソフトウェアなどには、その複雑さに戸惑ってしまう。その理由は、テクノロジー企業が農家の現実を把握できていないためであると指摘している。

スタートアップの聖地シリコンバレーの人々はドローンや人工衛星の可能性に陶酔しているというのだが、実際に農家が必要としている技術はもっとベーシックなものなのである。ビッグデータ解析を行うソフトウェアは確かに農家にとって有益なものの、非常にコストが掛かり、投資に対するリターンを回収するのが難しいのが現状だという。よりベーシックな技術とは、より良い灌漑システムや手書きのノートのデジタル化といったものを指す。すなわち、投資を受けるような技術が最先端を行き過ぎており、現場のニーズに合っていないのが問題だと言っているのだ。

また農家にとっては別の問題を不安視する声もあるという。こうした新たなテクノロジーの欠陥が全体の収穫や年間の収入を脅かす可能性もあるというのだ。スタートアップが農家の栽培の方向性を変えてしまい、費用が掛かったのに対し効果が出ないといった例もある。こうした事実から、新たな技術を導入するのが本当に意味のあることなのかという疑問が農家の中には浮かび上がっていて、技術導入は非常に頭の痛い悩みとなっているという。

一方で、4分の3のアメリカの農家は今後3年以内に新しいテクノロジーに投資をしたいと考えていることが調査によってわかったと同誌は伝えている。またこうした動向からSilicon Valley AgTechなどのグループは現在、農家と投資家とスタートアップとのコネクションを作るカンファレンスを実施し、スタートアップのアイデアに対し農家がフィードバックをする機会を設けているのだという。

アメリカのAgTechバブルの問題からは、日本も学べることがあると言えるだろう。もちろん、日本国内ではバブルなど起こっていない。しかし、日本国内でも農業に関する新たな技術は誕生しているものの、その普及という面には課題が見られる。

確かに、アメリカと比較して日本はベンチャーに対する投資額が圧倒的に少ない、日本の農業従事者は高齢者がマジョリティであるため新技術が浸透しにくいといった理由は考えられる。さらに言えば、アメリカと比べても農家個人の持つ資本力が小さいといったことも普及を阻む要因と言える。

しかし、もっと大きな問題は、現場に合った技術開発がまだ未熟であることや技術に対する信頼度を十分に高められていないことではないだろうか。資本力に乏しい日本農業にこうした新技術を取り入れていくには「本当にこの技術を導入することに意味があるのか?」という問いに答えられなければならない。特に日本列島は縦に長く、各地で栽培方法や環境は大きく異なるため、そのニーズも微妙に異なる。こうしたニーズにひとつひとつ丁寧かつ地道に応えていくことが、今後の鍵になりそうである。畢竟、生産者と提供者の協力関係が重要なことは間違いない。

 

参考記事:http://fortune.com/

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