カーギルがタイにエビ養殖の研究センターを設立、その狙いとは
穀物メジャーの雄は、水産業へ力を入れ始めている。
5大穀物メジャーのカーギルが、タイでエビ養殖イノベーションセンターを建設する見込みであると、水産業ニュースサイトUndercurrent Newsが伝えている。カーギルがアメリカ国外にイノベーションセンターを建設するのはこれで5件目となる。施設は来年着工の見込みとのこと。
カーギルがタイを選んだ理由
同社はエビの養殖事業を、水産業の中でも重要な産業であると位置づけている。その中でもタイを選んだのは、世界でも有数のエビ養殖業が盛んな国で、エビ輸出量も世界第5位という実績を評価したからだ。日本にとってもタイは重要なエビ輸入国で、2015年は約1万トンを輸入している。
また、今後拡大するであろう重要なマーケットであるタイで生産事業のプラットフォームを提供することにより、アジア地域でのカーギルのプレゼンスを高めていこうという狙いがあると見られる。
以前からタイのエビ養殖は感染症が心配されていたが、それも回復傾向にあることも、今回の施設建設に踏み切った要因とも見られる。EMS(Early Mortality Syndrome:早期死亡症候群)と呼ばれる感染症のため、年間50-60万トンあったタイ国内でのエビ生産量は一時21.5万トンまで落ち込み、危機的状況とも呼ばれていたが、今年は28.5万トンまで回復する見込みだという。
2011年には既にカーギルは、タイのエビ養殖用飼料メーカーのSiamakme Aquatic Feeds Co., Ltd.を買収している。タイがアジアの水産業の重要な拠点であることは、以前から目をつけていたようである。
水産養殖事業に力を入れるカーギル
2050年までに世界のタンパク質需要が70%拡大するとう見込みを受けて、カーギルは近年、グローバルスケールでの水産養殖事業に注力している。
昨年、カーギルはサーモンの飼料を生産するノルウェーのEwos社を13.5億ドルで買収している。水産養殖の需要は食肉より早いペースで需要が拡大していて、水産養殖に用いられる飼料が5年連続で不足するとの見方があるほどだ。その養殖飼料の価格は15年前の3倍以上となっている。
また今月、チリにもイノベーションセンターを建設すると発表した。目的は、サーモン養殖の健康状態を向上させるためだという。タイのエビ養殖と同様に、チリのサーモン養殖でも感染症が蔓延していることが問題視されていた。イノベーションセンターは子会社となったEwos社と共同で運営し、養殖業研究のハブのような存在を目指しているという。
このサーモン養殖事業と前述のエビ養殖事業が、カーギルの水産事業の核となるようである。
カーギルは今月、音響技術を用いた新しいエビ飼料ディスペンサー”iQuatic”を開発するなど、水産業に関するM&Aや技術開発などに積極的だ。一方で今年初旬には、肥料事業から撤退するニュースもあった。大きく変わり始めた世界的な食料事情を前に、穀物メジャーも事業の選択と集中を迫られているようである。