• このエントリーをはてなブックマークに追加

精密農業の価値とその変遷

Pocket はてブ

Editors Note: This article was originally published on AgFunderNews, the online publication of AgFunder an investment platform for food and agriculture technology

精密農業向けソフトウェアを提供するDecisive Farming社CEOであるRemi Schemaltz氏は、精密農業の価値とその変遷について以下のように述べている。


私の家族は18世紀の曾祖父母の代からカナダのカルガリー郊外にて農業に従事してきた。時が経つにつれ、その事業の中心は作物を育てることから、農業用の機器を売ることに変わってきた。我々の事業のコアは農業に必要なテクノロジーに移り変わってきたのだ。

農業ビジネス全般にも同様の移り変わりが見られる。テクノロジーはいまや、すべての農家、流通事業者、作物栽培学者にとって欠かせないものとなっている。2017年1月に発表されたHexa社の調査によると精密農業の市場は2025年までに434億USドルに達すると言われている。精密農業のコンセプト自体は1990年代に生まれたものであることを鑑みるとその成長は著しい。

農業へのテクノロジー活用の進展は驚くべきものではない。なぜなら農業は土地/労働力集約性が非常に高い産業であり、その土地利用効率を高め、作業管理コストを下げるためにテクノロジーを活用する動機を農家が持っているためである。

しかし、このバズワード化している「精密農業(Precision agriculture)」の意味するものは何だろうか?

最もシンプルに理解する方法は、より正確かつよりコントロールされた作物栽培や家畜育成をイメージすることである。この農業管理手法の重要な要素は情報通信技術(ICT)や様々な機器、例えば農機のGPSガイダンスや軌道制御システム、センサー、ロボティクス、ドローン、自動走行農機、可変作業技術などを、組み合わせて活用することである。

精密農業の最初の波
精密農業という言葉の誕生は、GPSガイダンストラクターが登場した1990年代に遡る。今ではこの技術は広く世界的に普及し、現在では最も普遍的に使われる精密農業事例と言える。John Deere社は衛星から得たGPSの位置情報を自動走行農機の分野で活用した最初の企業である。GPS接続された農機は農場の形に応じて自動的かつ適切な軌跡で走行できる。これにより、操縦ミスや重複した走行を減らすことができ、結果として、種苗や肥料、燃料、時間の節約につながる。

精密栽培*(Precision Agronomics)
精密栽培 (Precision Agronomics) は、精密農業と並んで農業へのテクノロジー活用にかかる重要な概念である。その狙いは、より正確に作物の肥培管理を行うことである。精密栽培は以下の技術的要素を持つ。
*訳注: “Precision Agronomics”について、業界で一般的に使われる対訳が2017年5月時点では存在しないため、本稿では「精密栽培」という言葉を用いる。

– 可変作業技術 (Variable rate technology (VRT))
可変作業技術(VRT)は圃場内のエリアごとに資材投入を可変に管理、調整する技術を指す。VRTの基本構成要素としては、コンピュータ、ソフトウェア、コントローラ、そしてディフェレンシャルGPS (DGPS) が挙げられる。VRTの基本的な方法論として、マップベースな方法、センサデータベースな方法、マニュアルに行う方法の3種類が挙げられる。現在VRTは北米の農業経営体の約15%程度が導入していると見られ、今後5年間でより普及していくものと考えられる。

– GPSベースの土壌調査 (GPS soil sampling)
土壌調査は土中の栄養素やpHレベルなど、農家の意思決定に活かせる情報項目を取得できる。土壌サンプリング調査は、圃場内の生産性のばらつき情報を農家に与え、そのばらつきを考慮した計画立案に貢献できる。土壌データのサンプリング調査は、播種や施肥に関して最適な可変作業技術 (VRT) につながる。

– アプリケーション (Computer-based applications)
精密農業の計画立案や圃場マップ作成、作物の生育経過のスカウティング、収量マップの作成などにアプリケーションが活用できる。これはインプットデータがより細かく、例えば殺虫剤や除草剤の散布、施肥などのデータまで取得できると、より詳細な目的で活用できるアプリケーションが作れ、より少ない資材で大きく収量を伸ばし、かつ環境負荷の小さい農業を実現できる効果が期待される。これらのソフトウェアシステムに関する課題として、現時点ではデータから狭い視野の選択肢しか導き出せず、例えば篤農家の力を借りてより農場を大きくする、といった選択肢も含めた意思決定をサポートすることはまだ難しいことが挙げられる。他にも現時点では、多くのソフトウェアはUIに改善の余地があり、また複数の情報ソースと統合してより多くの観点で意義のある結果を返すことが難しいといった課題が挙げられる。

– リモートセンシング (Remote sensing technology)
リモートセンシングは1960年代後半から農業分野に利用されてきた。これは土地利用のモニタリングや土地・水・その他資源管理のために非常に重要な技術である。農業においては、地点ごとの作物ストレス状況とその要因を特定したり、水分量の変化を把握したり、それにより意思決定を助ける役割がある。このデータは農場経営の意思決定に役立つものであり、衛星やドローンといった多種類のデータソースから取得できるものである。

まだ基本的なレベルだが、精密栽培は作物栽培学者の役割を果たしつつあり、彼らの手法をより正確かつスケーラブルに現場で利用できるようにしている。

精密農業ならびに精密栽培の基本的な狙いは、環境に配慮しながらも、収益性・効率性・持続可能性を担保した農業を実現することにある。これは、紹介してきた技術によって集めたビッグデータの活用により実現され、直近から将来まで、いつどこでどれくらいの肥料や農薬、種子を使うべきか意思決定に役立てられる。

精密農業の考え方が生まれて25年以上経つが、それが農家に定着し始めたのは直近10年ほどのことで、その要因は周辺技術も含めた技術の進歩にある。モバイル端末での高速通信、低コストかつ信頼できる位置情報提供や衛星画像提供、農機メーカーの努力による精密農業に最適化された農機の登場、これらが精密農業のトレンドに貢献してきた。専門家によると今日の50%以上の農家が、少なくとも1つ以上の精密農業要素を活用しているという。

さらなる発展に向けた旗振り役の必要性
これからも精密農業の革新は続き、農家は利用可能な技術を次々と現場に適用し、事例を作っていくだろう。他産業と同様に、私たちは技術適用をより効率的に加速させるために、より多くの旗振り役が必要になる。また農家が成功の確信を持って新たな技術を導入できるようにサポートが必要である。そこでDecisive Farming社では、農家が新たな技術を導入、活用し、習熟するためのトレーニングサービス “Get Precision Agriculture Ready” を提供している(インフォグラフィクス参照[クリックで拡大])。

私たちが目指す姿
農家が新たな精密農業手法を導入するのと並行して、新たな技術が次々と生まれる。次に控える大きな進歩はAIの活用だろう。AIは農家に日常的に要求される複雑な意思決定を代替できるまでは至らないだろうが、その意思決定を簡単にするためのサポートは可能だろう。

今日の農家は豊富なデータにアクセスできる。ただ大量すぎるデータを利用できる立場にいても、人間にはその大量データを処理し、判断に役立てることは難しい。AIは短期間に大量のデータを分析し、農家が取るべき最適なアクションを導き出せる。これにより、最適な定植日を予測したり、病害虫の発生を予察したり、収穫前に収穫量(畑の中にある状態での在庫)を予測することが可能になるかもしれない。

私は本稿が精密農業の発展に何らかの形で貢献できることを期待している。2050年に世界90億人を養える農業を目指して、製造業や情報技術産業には農家のニーズを捉えながら、さらなる可能性を模索することを期待している。

Link: https://agfundernews.com/what-is-precision-agriculture.html

Pocket はてブ