オイシックス主催、全国の優良農業者が集うイベント「N-1 SUMMIT2017」開催レポート
3月14日、N-1 SUMMIT実行委員会(事務局:オイシックス社)が主催する年に一度のイベント「N-1 SUMMIT」が都内で開催され、日本の農業を牽引する農業関係者が一堂に会した。このイベントは、オイシックス社が日本の農をより明るい方向へ切り開くことを目指したもので、有識者を招いたパネルディスカッションや、消費者から最も評価された生産者の表彰などを行う。
今回のイベントのコンセプトは農業の新しいテクノロジー「アグリテック」。先進的な取り組みをしている生産者の方々の目には、どのように映ったのだろうか。
パネルディスカッション 〜いざ農業改革!未来を変える最新アグリテックの「今」〜
最初のコンテンツはパネルディスカッション。パネリストには、圃場センサーを開発を手掛けるKAKAXI, IncのCEO 大塚泰造氏、農業ロボットを開発し自身もトマト農業を手がけているフューチャーアグリ株式会社の代表取締役 蒲谷直樹氏、KAKAXI, Incのセンサーを実際に使用し、沖縄でカカオを栽培している株式会社ローカルランドスケープの代表取締役 川合径氏がパネリストとして登壇。モデレーターはオイシックス社の執行役員 高橋大就氏が務めた。
農業に関するテクノロジーといってもバリューチェーンの中で様々な応用の方法がある。その中で今回のパネルディスカッションでは、生産段階でのテクノロジーにフォーカスした話題で進行していった。
農業ICTの技術は開発が進められているものの、実際に農業の現場に広く普及しているわけではない。そこで「農業ICTって本当に役に立つの?」という議題があがり、セッションを聞いていた生産者の方々も興味津々の様子の方が多かった。
施設栽培を自身で営んでいる蒲谷氏は、「どの段階の経営改善をしたいのか、ICTでどのようなことをしたいのかを明確にすれば役立つんじゃないか?」との意見。また、歩留まりを向上させられるかが大事な点だとも述べ、施設園芸がICTの入り口になるのではないかと話した。大塚氏は「得たデータをどうやって使うのかによって左右されるのではないのか。」と発言。大塚氏のセンサーを実際に使っている川合氏は役に立っていると述べ、その理由として「日本ではそもそもやっていないカカオに挑戦しているので、どのような環境が適しているのかを探るのに役立っている。」と発言した。
また「農業ICTの普及の課題とは?」というテーマに対し、蒲谷氏は「まず価格がボトルネックになっている」と発言した。続けて、メーカーが農家目線の価格に設定していないと指摘。一方で、センサーなどはこれから安価になってくるのではとの考えを述べた。大塚氏も、需要がまだ大きくないから価格はどうしても上がってしまうと述べた。
1時間にわたったセッションの最後には、今後のテクノロジーの展望について語った。実際に過疎地でカカオ生産に携わる川合氏は、「都市に入る消費者と生産現場のコミュニケーションができるのではないだろうか。生産に携わる人を増やす可能性がテクノロジーにはある。」と発言。大塚氏は、「ICTは手段でしかない。もっとユーザーと話がしたい。」と意気込んだ。蒲谷氏は「土地が余っていて農業に入るにはチャンス。どうやってその農業ICTを広げるのかが問題。労働生産性を高めてチャンスを捕まえる発想が大事なんだと思う。」との考えを述べた。
このセッションを聞いて感じたことは、ずばり「生産現場と開発現場の意識の乖離」という点である。テクノロジーを開発する側は、価格やプロダクトといった面でまだまだ農家目線になれておらず、生産者側はどの部分の課題解決のためにICTを使うのかという目線で見ることができていないといった印象だ。大塚氏がユーザーと対話したいと話したように、双方の現場の意識のすり合わせが、テクノロジー普及の今後の鍵となりそうだ。
見て聞いて実感!最新アグリテック
アグリテックを実際に会場で見ることで、具体的なイメージを抱いてもらおうというこの企画では、プレゼンテーターとして株式会社ホープフィールドの取締役 嘉数正人氏、パネルディスカッションにも登壇したKAKAXI, IncのCEO 大塚泰造氏が登壇した。
嘉数氏は農業で使う一輪車を電動化するキット”E-cat kit”を紹介。重たいものを乗せた一輪車は生産者の負担になっていたが、これを用いることで大きく軽減できるとのこと。会場ではベテラン農家が実際に使用し、「思った以上に力があってびっくりした」と驚いた表情だった。
大塚氏は自社製品のKAKAXIを紹介。気温、湿度、日射量センサを搭載し、データはスマホやタブレット、PCで確認できる。太陽光発電で稼働するため、電源が必要ない。そして注目はこれが月額9,800円からと非常にリーズナブル。会場では、その組み立てを実演し、誰でも簡単に使えるデバイスであることをアピールした。
農家が本気判定!〜アグリテック・ピッチバトル〜
今や日本でもアグリテック開発に取り組む企業がスタートアップを中心に増えてきた。この企画では、様々なアグリテックの開発を手掛ける企業が本気で新規事業をプレゼン。審査員は農家。現場に受け入れられたテクノロジーとは一体?
プレゼンターは以下の5名
- Freight Farms Inc. Director of Sales and Business Development for Japan 中野俊哉 氏
- 株式会社SenSprout マネージャー 菊池里紗 氏
- 株式会社ルートレック・ネットワークス 代表取締役社長 佐々木伸一氏
- 株式会社ジェイアール貨物・南関東ロジスティクス トランスポートメディア事業部長 徳重政直氏
- PLANT DATA JAPAN株式会社 最高執行責任者 北川寛人氏
Freight Farms Inc. の中野氏は全自動水耕栽培システムを搭載した40フィートコンテナを紹介。
株式会社SenSproutの菊池氏はプリンテッドエレクトロニクスという最新技術を使った土壌センサーのSenSproutを紹介。以前このメディアでの記事でも取り上げているのでこちらも見ていただきたい。
株式会社ルートレック・ネットワークスの佐々木氏は施設園芸向けの点滴灌漑システム「ゼロアグリを紹介した。
株式会社ジェイアール貨物・南関東ロジスティクスの徳重氏は、鮮度維持機能を搭載した特殊12フィートコンテナ「氷感SO庫」を紹介した。
PLANT DATA JAPAN株式会社の北川氏は、人間が把握できないレベルの植物生体情報を利用した超高度生産管理システムを紹介した。
以上5社によって争われたピッチバトルは、最終的に会場の農家の方々が最も使ってみたいと思ったものに投票され、優勝が決定するのだが…
最終的な結果はこちらの取材記事をご覧いただきたい。
農家・オブザイヤー
毎年恒例のこの企画は、オイシックスを利用している顧客から最も多くの「おいしい!」をもらった生産者を表彰するもの。約1,000の生産者の中から最高金賞「農家(ノーカー)・オブザイヤー」が選出される。
今年最高金賞に輝いたのは、みつトマトを生産している伊原努さん(千葉県)が受賞。土を使わず特殊なフィルムを用いて水耕栽培で生産しているのが特徴。 根から吸収する水分を細かく調整することで、甘みと旨みが凝縮されたフルーツのようなトマトを生産する高い技術を持っている。伊原さんは、「いつも受賞されている農家さんがノミネートされていないから自分が選ばれたと言われないように、これからも美味しいトマトを作っていきたいと述べた。」
表彰後には衆議院議員・自民党農林部会長である小泉進次郎氏も駆けつけ、受賞した野菜たちを試食。小泉氏は、「N-1はお客さんが農家さんに感謝の気持ちを伝えるところが素晴らしいと思う。農業界にこうした関係が広がっていければ。」とコメントした。
まとめ
今回のN-1サミットで話題の中心となっていたのがアグリテックと呼ばれる農業分野の新しいテクノロジーだ。この普及の課題には、いかに現場目線になって開発をすることができるかという点をクリアする必要がある。また使用する農家も「何を解決するのにテクノロジーを使うのか」といった目線を持つことが重要になりそうだ。
このような視座をお互いが持つためには、今回のN-1サミットのような、両者が参加するタイプのイベントが非常に価値を持つだろう。
N-1サミットは懇親会まで含め大盛況に終わった。今後先進農家とアグリテック開発者が手を組むことで、日本の農業の成長に寄与することが期待される。