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民間/公共間に走る緊張とNGOの活動:アジアのバイオテクノロジーを鈍化させるのは (Part 1)

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今後数十年の間にアジア食糧安全は多くの困難に直面すると予測される。これまでの25年間、アジア経済は、インド・中国・日本・韓国・シンガポールによって先導されながら毎年6%前後の成長を遂げ、すでに世界経済の40%にもなっている(Lagarde, 2016)。しかし、世界の人口の60%を有し世界の貧困層の2/3が集まるこの地域では、多くの国で食糧安全が保障されておらず、気候変動や伝統的な農業が農業セクターを脅かし続けている。

収入の増加につれて、食事の内容が、肉・乳製品・卵・フルーツ・野菜などの様々な食材を含んだものに変わっているため、人々のカロリー摂取需要は高まっているのが現状だ。その結果として、未加工農産品(RAC: Raw Agriclture Commodities)への需要が急激に増加している一方で、農業セクターはそれに対応できるほど良い状況にない。それは以下のような理由に起因する。

1: 人口増加とペースが合っていない。例えば南アジアの農業生産実績は低下している。GDPに占める割合は43%から18%へと減少した。

2: 農業コミュニテイは高齢化が進んでいる。

3: 気候変動が異常気象の発生を増加させている。国際食糧政策研究所の予測では、2050年のアジアでの小麦とコメの生産量は、気候変動の影響により2000年と比べてそれぞれ14%、11%少ないと考えられている。

 

ではバイオテクノロジーはどんな役割を果たせるか?

すべての問題がバイオテクノロジーによって対処できるわけではないが、アジアではバイオ作物(GM/遺伝子組換え作物)が上記の問題を解決する手段として急速に導入されている。バイオ作物を栽培する世界の1億7900万ヘクタール分の耕作量のうち、11%がアジアからだ。今日では、8国がバイオ作物の栽培を行い、数カ国が輸入をしている。

バイオテクノロジーがより普及すれば、収穫量を増やせ、害虫や発病を減らせ、生産コスト(労働力と化学物質)も削減でき、非生物的ストレスや気候変動に強い作物を開発することが可能となるだけでなく、栄養価値の高い農作物も開発することができる。地球レベルの食糧危機に対応するには、アジアの国々には、科学に基づいた政策と規制を通じて、かつ遺伝子組換え反対活動との戦いを通じて、バイオテクノロジーを進んで活用していく必要がある。

 

アジア各国の農業バイオテクノロジーの動向

(中国)

中国はアジア最大の経済大国であるが、現在政府主導で、バイオテクノロジー研究の世界的中心地として存在感を増している。農業は中国の労働力の43%を占めるのだが、今の生産方法と土地容量の点で上限に達している。耕作可能地の不足、増える人口、急速な都市化、これまでの農業の発展の軌跡と食糧配給の歴史が全て相まって政府に圧力をかけているのだ。

中国は1980年代から既にバイオテクノロジーの研究に非常に力を注いでいた。2002年のHuangらの研究によれば、中国政府の研究者らはBtコットンの複数の品種を開発し、1997年には栽培の許可を与えた。モンサント社は中国国内の会社およびChinese National Cotton Research Instituteと協働し、1990年代後半に別のBtコットンの市場の流通に携わった。中国の農家は、Btコットン(遺伝子組換えされた綿)が許可されるまでは、綿花の花と実を食い荒らす害虫であるボールウォームの蔓延に頭を抱えていた。非常に農薬に対する耐久性が強い虫であり、農家に問題が尽きることはなかった。そこで、有機リン酸とピレトロイドとその他化学物質の混合物、DDT等の殺虫剤を用いたが、最終的に農家らはBtコットンの使用に行き着くこととなった訳だ。

中国は遺伝子組換え作物(GMO)生産の中心地になろうと躍起だっている。2014年、習近平国家主席は「我々は海外企業にGMO市場で優位に立たれることを許してはならない。(中略) 中国は果敢に研究活動をし、イノベーションを起こし、高い水準でそびえ立つべきである」と述べた。その後、USドルにして30億ドルの予算が遺伝子工学種子開発に注がれた。

(バングラデシュ)

一方で多国籍企業に頼らず、国内の遺伝子組換えマーケットを積極的に強化しようと動いているのは、バングラデシュである。2014年に同国は、バイオ工学を使ったナスを栽培した最初の国となった(2014年Choudharyらの研究より)。ナスは果物や新芽に穴を開ける穿孔虫の標的になりやすい作物であり、伝統的な殺虫剤では効果的に対処できないほど被害を受けやすい。ナスは15万の小規模で貧しい農家によって育てられている主要作物である。

World Vegetable Centreが行った社会経済調査が示すところによると、遺伝子組換えがされてない種子を使ってナスを育てる農家のうち98%は殺虫剤を使用し、60%が6〜7ヶ月の収穫時期の間に140回以上その散布を行っているという(Alamら2003年の調査より)。

Btコットン(遺伝子組換えナス)のメリットは大きい一方で、その導入率は低い。その理由は、バイオ種子はバングラデシュ国営の研究機関でのみ製造されるため、需要に追いつくことができていないからだ。中国と同様、バングラデシュもバイオ作物を政府機関の手の内に収めておきたいと思っている。

(インド)

インドは、アメリカに6年遅れて2002年にBtコットンを採用した。それ以前はインドは生産の面で停滞、綿生産量が減速、輸入に過剰に依存していた。しかしインドはアメリカよりも早くBtコットン利用率95%を2012年に達成した(James, 2015より)。2015年にはインドは中国を抜いて世界一の綿の生産国となり、農業収入は2002年から2014年にかけて183億USドル(推定値)上昇した。インドは加えて、遺伝子組み替えからし、ヒヨコマメ、コメ、コットン、トウモロコシ、サトウキビ、ナスの研究を何十年も続けてきた。だがしかし、これらの作物が世間の日の目を見るのは、遺伝子組換え反対運動を拒絶する人々を政治の世界で集めるがことができて可能になるのだ。

(フィリピン)

2003年のことであるが、フィリピンは東南アジアでBtトウモロコシを採用した最初の国となった。ただ、農家達がBtトウモロコシによって経済的、農業技術的、環境的にも利益を得ている一方で、この国は様々な反発、破壊行為、裁判事例に直面している。

農家レベルでBtトウモロコシの活用でもたらされる経済利益は2014年だけで8900万USドルと推定され(James, 2015)、35万の貧しい農家に利益がもたらされた。Javierらによる2004年の研究によれば、フィリピン北部のBtトウモロコシ農家では、伝統的交配のトウモロコシを栽培する農家と比べて、花カメムシ、カブトムシなどの甲虫、クモなどの益虫に顕著な増加が見られた。現在研究開発中である種は、βカロテン豊富なコメ、害虫に強いナスおよび綿、ウイルス耐性パパイヤである。ゴールデンライスは現在フィールド試験の真っ最中である。Btナスは収穫量を上げ、殺虫剤の使用を48%も削減することとで農家の収入を増幅すると見込まれている。ウイルス耐性パパイヤに関しては、これまでのパパイヤより275%も収入を増加させると予測される。

(パキスタン)

パキスタンでは、6年間の商業栽培を経て、93%の綿の栽培はバイオテクノロジーを使ったものに変わった。2010年から2014年の間で19億USドル、2014年だけでは299USドルの経済的利益があったと推測される。他方で、パキスタンでは公共セクターからのフィールド試験の申し込みが約900件もペンディングになっており、調査に頑健性があることを示すと同時に、規制プロセスの鈍足さも意味している。

(ベトナム)

ベトナムはBtトウモロコシの栽培を2015年に認証した。

(ミャンマー)

ミャンマーはアジアで唯一、国が定める法律やガイドラインなしでも合法的にバイオテクノロジーによる生産が認められている。Btコットンは2006年に最初に栽培が始まり、高い生産高、少ないインプットコスト、利益増加、害虫駆除剤の使用度低下といった重要な結果に繋がった。

(インドネシア)

インドネシア、世界で二番目の粗糖の輸入国であるが、アジアで次にバイオテクノロジーを承認する国を予想するならここだろう。2013年、国内初栽培の、遺伝子組換え耐干ばつサトウキビに、翌年まで商業栽培を認める安全認証を国が与えた。また、遺伝子組換えの大豆、トウモロコシ、コメも現在同じく認証のために調査を受けている。

(マレーシア)

マレーシアはアジアの中でも独特だ。この国では2010年時点で農業はGDPの7.3%しか占めず、現在傾向すらある。マレーシアは食物や飼料の主要な輸入国であるが、自国の種苗業界は大きくない。マレーシアは生物学的安全性(biosafety)関連法を進展させることに前向きであり、現代のバイオテクノロジーを進歩させることに献身する一方で、商業栽培に関してはまだ現実味を帯びていない。多くの研究者が長く退屈なその認証プロセスに慣れておらず、遺伝子組換えの研究を途中で放棄してしまうのだ。加えて、バイオ作物の研究も必要に応じてその場その場で行われるだけで、長期的なビジョンを持ってなされるわけではない。また、既に海外市場含めて出回っているバイオ作物のほとんどがマレーシアの気候に適していない。Btトウモロコシであればマレーシアでも栽培可能であるかもしれないが、ある研究は輸入する方が自国栽培するより経済的であると結論付けている。ただ実際のところ政府当局はトウモロコシを栽培するプランを再検討している。

 

アジアの農業とバイオテクノロジーをめぐるファクト

・アジアでは22億人が生計の手段として農業に依存している。

 参考: アジア開発銀行ADB (2009)

・コメや小麦などの主要作物の生産量が停滞・減少していることは究極的には、農業への投資が減っていることに関連付けられる。農業部門への公共投資は、インドでは例えば、2004年以降基本的に一定である。

 参考: アジア開発銀行(2012)

・2015年では、1970万ヘクタールの耕作地でバイオ作物が育てられたと想定され、バイオテクノロジーが作物関連の技術の中で最も急速に使われてた技術になっている。

 参考: James (2015)

・2015年現在、バイオ作物を栽培する国のトップ10の内、3カ国がアジアに属する。インドは116万ヘクタールの綿を、中華人民共和国は370万ヘクタールの綿・パパイヤ・ポプラを、パキスタンは290万ヘクタールの綿を生産する。

 参考: James (2015)

・食糧および飼料となる作物の需要は今後50年間で2倍近くまで増加する。肉、牛乳、砂糖、油、野菜は基本的に穀物を栽培するより多くの水を必要とする。(異なる水の管理方法も必要となる。)

 参考: Molden (2007)

・アジアには遺伝子改良トウモロコシに潜在的な大きな可能性がある。特に中国が有する3500万ヘクタールの耕作地が認証され技術が取り入れられたら、成長著しいだろう。

 参考: James (2015)

・IRRI(国際米穀調査協会)によれば、2016年の第3四半期までに、インドとタイを合わせたコメの備蓄量は、2013年と比較して70%程度低くなると予想されていた。

 参考: Mohanty (2016)

 

原記事 著者情報

Mahaletchumy Arujanan氏

マレーシア・バイオテクノロジー・インフォメーションセンター(MABIC)の取締役、兼マレーシア初の科学新聞であるThe Petri Dishの編集責任者である。彼女はマレーシアにあるモナシュ大学の非常勤講師でもある。彼女は2015年のScientific American Worldviewによってバイオテクノロジーの分野で世界で最も影響力のある100人の一人に選ばれた。Facebookが彼女流の人々の科学リテラシーを上げる方法だ。

 

link

https://www.geneticliteracyproject.org/2017/02/21/asian-agrobiotechnology-slowed-private-public-sector-tensions-ngo-activism/

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