衛星画像を気軽に使える時代がやってくる?(2017 ESRIカンファレンスより)
2017年7月に米国カリフォルニア州サンディエゴにてGISソフト大手Environmental Systems Research Institute (ESRI) のユーザーカンファレンスが開かれ、16,000人もの参加者が集い、講演・ショーケース・ハンズオンなどで賑わった。本稿では農業へのGIS活用という観点から、筆者の感じる衛星画像の農業活用におけるカベと、カンファレンスから見えてきたそれらのカベを乗り越えようとする衛星画像を取り巻くトレンドについて紹介する。
Plenary Session に登壇するESRIのPresident, Jack Dangermond氏
1. 衛星画像の現場適用を阻むカベ
日本農業への衛星画像活用の現状について、研究課題は多く見られるものの、現場適用および適用が定着した事例はあまり聞こえてこない。理由として、私自身も衛星リモートセンシング分野に携わってきた経験から、現場適用には大きく3つのカベがあると感じている。1つ目は現場で求められる十分な撮影頻度や解像度でデータを取得できない技術的なカベ、2つ目はアプリケーションへの衛星画像のインポート、前処理にかかる手間が大きいというカベ、3つ目は画像分析結果を生産者がアクションにどう活かすか処方箋を明確化するというカベである。以降では、今回のカンファレンスで見えてきた、それぞれの観点での動向について述べる。
2. 多様な撮影頻度・解像度・品質・提供方法で差別化する衛星画像サプライヤーの戦略
ショーケースでは衛星画像サプライヤーとして、Planet(米), DigitalGlobe(米), AirBus(米), AxelSpace(日) など複数の企業が展示をしていた。その中でも特にPlanetは安価な小型衛星の大量打上げに成功しており、またGoogleの衛星事業Terra Bella(米)を買収したことから、衛星コンステレーション(複数衛星を用いて広域・高頻度の観測網を構築する方法)による画像提供分野をリードしていると見られている。Planetの説明員によると日本であっても、ほぼ日次で約3.5m解像度のベースマップが撮影できているだろうと言われており、彼らのデータが安価に簡単に利用できるようになれば衛星画像の活用も進むと期待できる。一方でDigitalGlobeやAxelSpaceといった他のプレイヤーからは、高解像度・高頻度は前提として、より高品質(高精度な位置情報・均質な解像度)なデータ提供やデータの提供方法による差別化意識がうかがえた。彼らの画像も含めて横断的に利用できるようになれば、現場の欲しいタイミング・解像度に合ったデータが得られるようになるだろう。
特にAxelSpaceは日本発のプレイヤーとして2022年には50機の衛星にて日単位かつ解像度2.5mでの観測網を整備するビジョンを掲げており、今後のデータプラットフォームとして期待が集まっている。まず2017年12月に最初の3機が打ち上がり画像提供が始まるということで、彼らの動向には引き続き注目したい。
3. APIによって衛星画像インポート・処理が簡単に
これまで衛星画像を利用するためには、それぞれのサイトに行き、データを検索してダウンロードし、そのデータを専用のソフトで展開、処理を行う必要があった(または代理店から画像を購入することで欲しい形に変えてもらう)。これらの手作業でのデータ収集、加工のステップが活用の妨げとなっていた。
今回のカンファレンスでESRIから強く打ち出されたものの1つとして、APIを介してのGISデータ提供がある。このAPIを用いることで衛星画像に限らず、ESRIの保有する、あるいはESRI提携のサードパーティが提供するGISデータをAPIを介して入手、処理できるようになる。これによりアプリケーションエンジニアやデータサイエンティストは、プログラムが利用可能な形でデータにより簡単にアクセスできるようになり、アプリのプロトタイプや試行錯誤を伴う分析作業に、より簡単に衛星画像を取り込めるようになる。APIはPythonやRといった一般的なプログラミング言語から呼び出すことができ、またユーザーデベロッパーによるコミュニティが作られているため、ありがちな企業の作った独自仕様のAPIに陥らないように工夫が凝らされている。
Python環境でのAPIを介した衛星画像 (Landsat) のインポート
4. 実績データの大量収集・分析による処方箋の開発
いくら衛星画像が高品質・高頻度かつ簡単に入手できるようになっても、その分析結果を生産者(あるいは農業関連企業)がアクションに活用でき、利益の向上に結びつかなければ意味がない。
グローバルに種苗・農薬ビジネスを展開するシンジェンタのプレゼンテーションでは、世界各地42カ国に3,700の農場において、品種や土壌成分、気象、施肥や農薬散布といった作業、そしてその結果で収量データを空間データとして集め、分析することで、改善のためのアクションをデータから導き出す取組が紹介された。
シンジェンタのリファレンスファームでの取組
さらにシンジェンタではCrop Challengeと題して、これらのデータの一部をオープンデータとして分析コンペティションを開催している。こうした実績データが大量に蓄積され、オープンに利用できるようになることで、衛星画像をそれらと重ね合わせ、収量や品質向上、土壌成分の適正化といった目的に資する画像指標が作成できるようになり、アクションに活かせる衛星画像の活用につながっていくと期待できる。