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【2017年】AgTech市場のランドスケープ

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Mixing BowlのSean Day氏がAgTech市場のランドスケープ を公開し、AgTech市場に関する最新の展望を示した。Mixing BowlではFoodTechならびにAgTechに参入する企業の情勢を捉えるためにランドスケープによるマッピングを採用している(ここからダウンロード可能)。この投稿では、投資やM&Aの動向を背景にAgTech市場のトレンドを見ていく。特にサプライチェーン領域での課題解決(および事業機会)を狙った企業の急増と、その背景にあるポストハーベストの技術要素について言及したい。

良いニュースとして、農業現場における農作物および農場管理の分野でいくつかの勝者が生まれつつある。Agfunder社のレポートによると、2016年に精密農業分野には4.05億ドルが投資されたが、そのうち38%が6つの企業への取引で構成される配分となっていた。一方で、私たちは大きな投資が必ずしも大きな勝者につながるとは言い切れないことにも注意する必要がある。

AgTech市場で起こっていること

2016年にシリーズAでの投資額が43%減少したことから、既往の農場内ソリューションを統合的に利用するような、より日和見的な合併に向かいつつあると示唆される。2016年の初めから、29のAgTech企業に対するM&Aがあり、そのうち21は非生物学的または化学/肥料をベースとした企業であり、21のうち5つはScotts Miracle-Gro社によって買収されている。このような出口のないAgTech市場の動向は、短期リターンを求める投資家たちにとっては健全なM&A環境ではないように思われる。

より健全なM&A環境を目指すには何が必要だろうか?基本的にはビジネスモデルが実証されていること、顧客獲得も安定した軌道で成長していることが求められる。これらは暗黙のうちに、人々が製品やサービスに対価を支払う意思があることを意味し、ユーザー組織に対して「あったらいいな(nice to have)」ではなく「必要不可欠(need to have)」という価値提供を証明できることが必要と示している。また流通経路や製品/サービスの提供体制はスケーラブルであることも求められるが、この点は最近の精密農業分野の企業にとってはほとんど体感できていない。最後に、製品/技術ギャップを埋めたり、新市場を開拓したり、顧客を統合したりすることを目的とした、買収のための通貨を有する中間市場(例えば、株式や資金調達の潤沢なバランスシートなど)を持つことも必要な条件の1つと言える。

2017年の残りの期間に対する私の期待として、アグリビジネス事業者は「AgTech戦略」のもとでM&Aを進め、アーリーステージのAgTech企業は顧客(試用ではなく対価を払う顧客)基盤を強化するためにM&Aを活用し、規模の経済に基づきコストを削減しながら製品/サービスを提供する流れを期待する。後者を戦略的に実行できる企業は投資家にとってより魅力的な存在となり、最終的にはAgTechエコシステムで必要となる中間市場の統合者となりうる。

未来のサプライチェーンの登場

メディアの誇大宣伝が投資サイクルを作っているとすると、ポストハーベスト技術、特にサプライチェーンとロジスティクス、トレーサビリティ2.0が、2017年後半から2018年にかけて日の目を見ると期待できる。

ワシントンポスト紙は、中国産の大量のトウモロコシと大豆についてオーガニックラベルの不正について明らかにし、ちょうど先週末には、数百万ドルにもなるカリフォルニアナッツの盗難事件が報道された。またFood Safety Newsからは、地元のいくつかのレストランが、フィリピン・ベトナム産のシーフードにおけるA型肝炎汚染に大きな影響を受けていると報じられた。こうした時勢の中で、サプライチェーンの課題解決に挑む企業への投資は活性化するだろうか?

年間4,800万人のアメリカ人が食べ物由来の病気に冒されており、リコールのため食品企業には直接的な費用として平均1,000万ドルが発生し、さらにブランド毀損と売上喪失を被る。これほど私たちのフードシステムは危機にさらされているにも関わらず、13億ドルもの投資がフードマーケットプレイス/Eコマースになされる一方で、サプライチェーン技術に対しては1.8億ドルにとどまっている。

多くのベンチャー投資家は、精密農業や農場内を対象とするサービスについて、それらがリーチできる市場規模を鑑みると、大きなリターンは期待できないと認識している。一方でフードサプライチェーンにおける安全・安心の担保、追跡、最適化は世界的な規模となる。世界的な食料廃棄の費用だけで年間9,400億ドルも必要と推定されている。2016年のマッキンゼーのレポートによると、収穫後のロスを半減できると10億人以上の人々に供給するための十分な食糧が得られる計算となる。また食糧生産に必要なエネルギーの削減も大きなビジネス機会となる。米国のフードシステムのエネルギー利用量は米国の総エネルギーの15%を占めると報道されている。

また、定量化は難しいものの無視できない要因に、消費者のフードシステムに対する嗜好の変化、平飼いの家畜(Cage Free)やオーガニックに向かってきていることが挙げられる。フードデリバリーサービスや農場から消費者に直接届けるアプリ、食材キット配送サービスなどに数十億ドルが消費されていることから、伝統的な食品流通のモデルは変わりつつあるとわかる。昨今ではスタートアップだけでなく、アマゾンのような大手IT企業が食品スペースに参入したり、UberがUberFreightを通して物流ビジネスに参入したりしている。既存プレイヤーは新たな消費者ニーズと新たな競合の脅威に対応しつつ利益を維持拡大するために更なる投資が求められる。こうした事業者にとってテクノロジーが、より正確に需要を予測したり、輸送を最適化したり、サプライチェーンを根本的に短縮しようとすることの助けとなる。

サプライチェーン変化のもう1つの大きな要因に労働力が挙げられる。以前の投稿にてこの話題を取り上げたが、生産者、運送業者、梱包業者、加工業者、みな人件費の高騰を感じており、その負荷軽減に役立つイノベーションを探している。自動運転トラックの実現も私たちが考えるより早く訪れるだろう。

農場内での技術導入と同様に、より川下のポストハーベストでの産業もまた助走段階にある。これらは古くからの商慣習に基づく複雑なワークフローをもつ大きな市場である。このエクセル上で走る硬直的な取引構造は、安価なセンサーやスケーラブルなデータ収集、ビッグデータ分析、多くの自動化技術などを統合した技術集合体の導入に適していると考える。

よって、私はいくつかのポストハーベスト領域のカテゴリをランドスケープに追加し、この領域における革新的な企業の潜在的な経済影響に加え、投資がこの領域を育てていくことも期待している。

AgTech市場のランドスケープを作るにあたり、私たちは1,500近くの様々なステージの企業をトラッキングした。AgTechイノベーターが増えるなかで、私は常に新しいプレイヤーについて学びよう心がけるとともに、企業には彼らにアクセスすることを強く勧めている。

Link: http://mixingbowlhub.com/2017-agtech-landscape-whats-horizon/

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