民間/公共間に走る緊張とNGOの活動:アジアのバイオテクノロジーを鈍化させるのは (Part 2)
前回の記事(part 1)では、アジア各国におけるバイオテクノロジーの導入状況について俯瞰した。
後編(part 2)では、遺伝子組換え作物に対するNGO等組織の反対活動の力強さやを紹介しつつ、アジアで考えられるバイオテクノロジーの将来を展望する。
遺伝子組換えへの反対活動運動
アジアには未だ食糧安全問題が残る。農家は収穫量の低さ、作物の病気、高い生産コスト、環境フットプリント、化学物質使用に由来する業務上の健康リスクに直面している。これらの問題はバイオテクノロジーを用いて十分に取り組むことが可能ではあるが、だからと言って、遺伝子組換えに反対の活動家達の運動が止まるわけではない。そういった活動はほぼ全てと言っていいほどアジア域外の外国の機関が先進国(西欧諸国の政府機関かNGO)からの資金調達をして、組織化されてたものである。
各国にある現地の機関は国際NGOによって十分に資金を受けている。Greenpeaceは、多くの国の研究開発費を超える巨額の予算を持つほどの組織であるため、数百万ドルを途上国にある支部に支給している。遺伝子組換え作物に対する反対運動は消費者団体からも出てきているが、そのような団体が多くのケースで遺伝子組換え作物について間違った理解の仕方が広めている。オーガニック団体やオーガニック業界も同様に遺伝子組み替えに関する恐怖心を作り上げている。
(タイ)
タイにおける、輪点ウイルスに耐性のある遺伝子組換えパパイヤの商業化失敗は、遺伝子組換え反対活動の影響の強さを示している。例えば2007年、ゴーグル、手袋、毒マスクを身につけた活動家達が、フィールド試験中の輪点ウイルス耐性パパイヤを根こそぎ抜いた他、Greepeaceのデモ参加者はフルーツのゾンビの格好をし、10メータートンのパパイヤを農業・協同組合省の建物の前に投げ捨てた。以上のような抗議活動は、バイオ作物のフィールド試験について、全ての種に関して国レベルの疑問を投げかけることになり、その影響は依然消えていない。彼ら活動家は農家の弁護をする発言をするが、特に農家に聞き取り調査をするわけでもなく、農業が抱える困難を理解しているわけでもない。それでもなお、2007年を通して、活動家は遺伝子組み替えパパイヤへの反対活動を続けた。
(インド)
インドは遺伝子組換え反対活動の拠点として、Btコットン以降の新たなバイオ作物の導入は上手くブロックされてきた。オーガニック農業推進、バイオ作物反対の集会が数千も開催されてきた。NGOによる戦略で最も効果があったのは、最高裁に申し立てをすることだ。そうすることで遺伝子組換え作物の出荷・流通を一時中止するのための予防原則を定める要求をしてきた。その結果、一部の作物(Btナス、バルスターバルナーゼ、雑種カラシ、ゴールデンライス)はまだフィールド試験の認可を待っている状態である(Kumarら2014年の研究より)。
2015年にインド最高裁は遺伝子組換えナスのフィールド試験を半永久的に中止させる判決を下した。これを実現した請願書を提出したのは、主要な国際NGOから支援を受けた科学者、農家および個人活動家によって構成されるグループである。遺伝子組換えトウモロコシが導入される以前は、NGOはロビー活動のために教会を動員したり、人々の宗教的な信仰心を利用していた。
一部の活発なNGOには反動もある。2015年、政府はGreenpeaceの銀行口座を凍結するに至った。その背景には、遺伝子組換え食品に反対する活動の主体的存在であるGreenpeaceが、国の開発プロジェクトを停滞させる意図で財務報告を偽り、説明のつかない海外援助を用いた疑いである。インド政府は同様に、同国への外国からの資金流入に対する取り締まりを開始し、NGOの資金調達元が入念に監視されることになった。
(フィリピン)
フィリピンでも反遺伝子組換え運動が強く、何百万ドルもの損失が農家にもたらせれてきた。フィリピンの最高裁判所は2015年に、永久的に遺伝子組換えナスのフィールド試験を停止する判決を覆した。これは高等裁判所に農家、科学者、その他農業アドボカシー団体が訴えを起こしたことに由来する。
(パキスタン)
パキスタンでも間違った情報の拡散が起こっている。巨額を用いて、バイソ作物を認可する政府権力やそれを実際に開発する民間機関を標的に、大衆に向けた無差別の郵送が行われた。著名人の暗殺も彼らの戦略の一つである。しかし、パキスタンでもバングラデシュでも、メディアこそが、バイソ作物へのネガティブな考え方を促す上で重要な役割を果たしている。バングラデシュではBtナスは成功を遂げているにも関わらず、間違った内容のニュース記事が人から人へと伝わり、Btナスは失敗作であると正反対の評判がなされた。
個人の経験から:活動家の戦略
科学に対する理解は一般大衆の間では薄い。バイオテクノロジーコミュニケーターとしての12年間のキャリアを通じて、以下のような遺伝子組換え反対のNGOの戦略を目にしてきた: 恐怖心の扇動、疑いの創出、自身に有利な部分だけ取るデータ選択、著名人の暗殺、匿名の手紙、公開討論への参加の抵抗、反論を受けた際にミーティングを中止、といった方法だ。
私の個人的な経験談で、彼ら活動家の倫理観に理解が深まる。日本で開かれたある生物多様性に関する世界会議で、一人の活動家が、なぜインドがBtナスを導入すべきでないか主張を述べた。しかしBtナスという作物について知識がなく、収穫までに何回薬品が散布されるか質問された際に、答えることができなかった。以下は、アフリカは農家の規模が小さいためバイオ作物を導入べきでないと主張する南アフリカのとある活動家と、同じく日本で議論した際のやりとりである。
私: アフリカの農家は永遠に小規模農家であるべきだと考えますか?
活動家: それは私が答えるべき質問ではありません。彼ら農家が決めることです。
私: 農業バイオテクノロジー企業にはアフリカでどのようなことを期待しますか?
活動家: 荷物をまとめて、アフリカから出て行って欲しいです。
私: どうして農家の立場を取られているのですか?農家達が自分達で決断するべきだという先ほどのご自身の意見に忠実でいたらどうでしょうか。農家に企業が去るか残るか決めさせるべきです。
活動家: もうこれ以上話し合う時間がありません。ここで切り上げましょう。(文字通り彼女は走り去って行きました。)
このストーリーから得られる教訓は、農家・政治家・政策立案者・規制当局・一般大衆は、遺伝子組換え反対活動家の多く(外国人であることが多いが)が持つ隠れた動機を理解しなければならないということだ。彼らは自分の住むところから何千マイルも離れた場所にある国の意思決定をしようとし、自分自身関わったことのない農家の持てる選択肢を制限しようとしているのだ。
アジアの確かな可能性
政治的な取り組みでしかバイオテクノロジーを前進させることはできない。各国は、活動家が助長してきた民間企業への嫌悪感を流し落として、法人が独占状態を作り出しているという間違った主張に負けないようにすべきである。事実、ほとんどの遺伝子組換え製品は政府によって開発されているのだ。1800万人のバイオ作物を育てる農家は愚かでない。農家の需要に応え、研究協力を充実させるための民間部門と公共部門の共同参画は、農業セクターを現代化させるための必要条件である。
ミャンマー、ラオス、カンボジア、タイで規制が必要だ。この地域は農業経験に富んでおり、法律文書やリスク評価・管理プロトコルを発展させることについては難しくないはずである。
しかし最も重要なことは、大衆の意識を上げることである。彼らが科学と疑似科学を正しく区別し、安全・環境問題を理解し、何よりも活動家と彼らの動機について理解できるようになることが重要だ。この点において、政治家・政策立案者・規制当局が鍵を握ることになるだろう。
原記事 著者情報
Mahaletchumy Arujanan氏
マレーシア・バイオテクノロジー・インフォメーションセンター(MABIC)の取締役、兼マレーシア初の科学新聞であるThe Petri Dishの編集責任者である。彼女はマレーシアにあるモナシュ大学の非常勤講師でもある。彼女は2015年のScientific American Worldviewによってバイオテクノロジーの分野で世界で最も影響力のある100人の一人に選ばれた。Facebookが彼女流の人々の科学リテラシーを上げる方法だ。
原記事link: