意外と知らない遺伝子組換え その規制とは?
寒い冬に食べたいものと言えばやはり鍋料理におでん。豚バラや豆腐、厚揚げやさつま揚げ、どれもおいしいものばかり。しかし、もしこれらの原材料に遺伝子組換えが含まれていたら…。あなたはどんな反応をするだろうか。
環境や健康に様々な影響を及ぼすのではないかとも懸念される遺伝子組換え作物。いったいどのように作られ、どのようなプロセスをたどって流通しているのだろう。
従来の品種改良との違いは?
まずは古くから行われてきた品種改良と20世紀後半から始まった遺伝子組換え栽培の違いを見ていこう。
品種改良の始まりは人が農耕生活を始めた頃だとされる。寒さや暑さに強く、消費者の嗜好に合ったものを生産するため、数多くの品種が作られてきた。
日本で主流なのは交配育種法と呼ばれるものである。2つの異なる品種を交配させて、できた雑種をランダムに交配させる。その中から目的の形質を持った系統を見つけ出し、同じ系統同士を交配させることを繰り返す。この方法では1つの品種を作り出すまでに10年ほどかかると言われている。
一方で遺伝子組換えは、ある生物の遺伝子を別の生物の遺伝子に組込んで新しい性質を付与する。動物の遺伝子を植物の遺伝子に組込むこともできれば、反対に、植物の遺伝子を動物の遺伝子に組込むこともできる。
英語では遺伝子組換えのことをGenetic Modification(GM)、遺伝子組換え作物のことをGenetically Modified Organisms(GMO)と言う。
GM栽培はアメリカで始まった。1994年、日持ちするGMトマト「フレーバーセイバー」が発売された。トマトを日持ちさせるため、果実を成熟させる酵素の生成を抑える遺伝子が組み込まれた。また1996年には除草剤耐性のダイズやナタネ、害虫抵抗性のトウモロコシが商品化された。
現在は、アメリカやアルゼンチン、ブラジルなどの28か国がGMOを商業栽培しており、発展途上国での栽培面積も増加傾向にある。少ない肥料で効率的に収量を増やすことができるため、遺伝子組換え技術は世界的な食糧難を避けるための一つの手段として考えられている。
しかし、GMOの安全性について不安に思う人は多い。GM栽培によって除草剤や殺虫剤の使用量が増え、癌やアレルギーの誘発の可能性も不安視されている。ニューヨーク・タイムズもGMOの効用に対する疑問を報じた。
日本でのGMO流通
2014年時点で28か国、計1億8150万haで商業栽培されているGMOだが、気になるのは日本での流通だ。日本が輸入するGMOはどのように安全性が審査されているのだろうか。
GMOを輸入、流通、栽培するためには事前に次のような法律に基づいて安全性を審査されなければならない。
生物多様性への影響「カルタヘナ法」
食品としての安全性「食品衛生法」及び「食品安全基本法」
飼料としての安全性「飼料安全法」及び「食品安全基本法」
生物多様性への影響
まず、生物多様性への影響についてだが、次の3つの観点から評価される。
- 競合における優位性・・・雑草化して他の野生植物を駆逐しないか
- 有害物質の産生性・・・野生動植物に対して有害な物質を生産しないか
- 交雑性・・・導入された遺伝子が在来の野生植物と交雑して拡がらないか
農林水産省は、万が一輸入されたGMOの種子が運搬時にこぼれ落ちてしまったときのために、輸入港の周辺地域などにおける生育の実態を調査している。また、承認されていないGMOについても海外における開発状況や流出事故等の情報を収集・分析し、植物防疫所で検査することによって日本への流入を防いでいる。
GMOを日本に輸入し、流通、栽培するためには、2004年に施行されたカルタヘナ法に基づいて事前に申請し、科学的な評価を受け、生物多様性上問題がないものと認められなければならない。
食品・飼料としての安全性
日本が商業栽培しているGMOはバラのみで食用、飼料用の栽培は行っていない。しかし、油や甘味料などの原料としてトウモロコシやダイズ、セイヨウナタネ、ワタを多く輸入している。これらの大半が遺伝子組換えだ。
出典:農林水産省資料(http://www.maff.go.jp/j/syouan/nouan/carta/zyoukyou/attach/pdf/index-7.pdf)
たとえば日本が輸入するトウモロコシの80.3%は米国産であるが、米国国内で栽培されているトウモロコシのなんと92%が遺伝子組換えである。このように、それぞれの原産国でのGM栽培率は90%を優に超える。
食品に使用するGMOが増え、消費者からGMO表示の要望が強まったことを受け、日本では平成13年からJAS法(農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律)と食品衛生法に基づいて品目ごとにGM作物やGM食品の表示が義務付けられている。ダイズやトウモロコシなどの農産物8種類とこれらを原料とする加工食品に表示義務が設けられている。
表示ルールを簡単に説明すると、食品が遺伝子組換え農産物を原材料とし、加工工程後もそのDNA又は組換えたことによって生じたたんぱく質が検出されれば、「遺伝子組換えである」又は「遺伝子組換え不分別である」旨を表示しなければならない。すなわち、遺伝子組換え由来のDNAやたんぱく質が検出されなければGMOを使用していたとしても表示しなくてよい。また、主な原材料(原材料の5%以上)でなければ表示義務はない。
このルールに対して、一部の食品だけでなく、GMOを使用するすべての食品に表示義務を課すよう求める消費者の声も上がっている。EUでは、原材料のうち0.9%以上GM食品を含んでいるすべての商品にGMラベルをはることを義務付けている。
EUでも増えるGM栽培と輸入
EUはしばらくGM栽培を禁止していたが、2004年にはスペイン・ポルトガルでGMトウモロコシの栽培が、2010年にはドイツとスウェーデンでGMジャガイモの栽培が始まった。イギリスでもEU離脱後にトマトやジャガイモのGM栽培が始まりそうだ。
EUへのGMOの輸入も増えている。2013年には1350万トンものダイズを輸入しているが、もちろん大半が遺伝子組換えだ。
国 | GMダイズ栽培の割合(2013年) | EUでのシェア(2013年) |
ブラジル | 89% | 43.8% |
アルゼンチン | 100% | 22.4% |
米国 | 93% | 15.9% |
パラグアイ | 95% | 7.3% |
参照:欧州委員会ホームページ(http://europa.eu/rapid/press-release_MEMO-15-4778_en.htm)
遺伝子組換え規制が厳しいと言われるEUでもGMOの需要が高まっているようだ。GMOに対する規制は、この需要と健康や環境への関心の高まりとのバランスによって今後も変わっていくだろう。