アグリゲート 左今克憲 : 垂直統合型の新しい八百屋が見る青果業界の課題と展望
前回の記事では、私の農業分野での起業までの経緯や、会社の今後について執筆させていただきました。今回の記事では、私たちが手掛けている野菜の仕入れプロセスの現状と課題、また話題のIT化にも触れてみようと思います。
食の業界を原料で切り分けると魚、肉、青果と分けられるかと思います。その業界毎での起業のし易さを考えると、青果業界は魚・肉業界に比べて相対的に参入が容易です。実家が農家、もしくは、農家さんの知り合いがいれば、その生産物を売りにいけば明日からでも立派な起業家となれるからです。魚や肉は販売そのものに許可が必要なため、販売へ参入する場合は初期投資もそれなりに必要ですし、構造そのものに触れて行こうとしたければ既存のプレイヤーとの何らかの関係が必須です。法の壁もあります。ですが、青果は販売許可が不要ですし、法で規制をされているのは農地法くらいです。私が起業して会社設立をした2009年~2010年頃も「●●地域の農産物を集めて販売しています」だったり、「農家の倅でチームを作り青果を販売する活動しています」だったり、と青果販売で起業仕立ての方々と会う機会が多くありました。また、これは今もですが新規就農には助成金がつきますので結構簡単に農業でも起業が出来てしまいます。ただ、青果業界(分解すると、農業と食の業界)の参入障壁は低いが”キャズム”がすぐに訪れて、それも何度もあるという感覚です。
実際のところ、青果販売で起業していた方々は別の事業に切り替えている方も多く、農業バブルなんて言われて就農していた方々もずっと農業をしていません。長く続けていくような経済活動にならなかったという事です。
僭越ですが、青果の仕入れプロセスを書いてみたいと思います。例えば、青果を売りたいと思ったら、①栽培して売る、②農家(法人)や組合から直接仕入れて売る、③市場から仕入れて売る、④青果卸問屋から仕入れて売る、の①~④のチャネルから選択する事になります。また、これらチャネルから販売する場所まで青果を運ぶというのが仕入れプロセスです。この業界を理解せずに参入すると、①や②の中間流通をぶち抜くような仕入れプロセスが最高の仕入れのように見えるためついそれに固執してしまう方がいます。ただ、このやり方で走り抜けるには、それ相応な戦略、オペレーション、人材マネジメントが必要になります。当然、資金も必要です。私は、②をやり切られたのが、上場企業で言えば、Oisixさんや農業総合研究所さんだと思っています。裏を返すと、①や②を選択すれば経済的に最も有利なチョイスには簡単にはならないという意味です。例えば、何段階かの中間流通を経て仕入れた商品が、②や①よりも安価に仕入れられるということも良く起こります。
なぜ上記のような事が起こるかというと、大きくは2点要因があります。
まず1点目、現状の青果価格決定の大部分は、A.産地毎のブランド価値、B.物流コスト、C.現在どれほど需要があるのか(相場や相対などの価格決定)などと、人為的な操作も複雑に絡み合って価格決定されている事。
次に2点目、①や②の場合特に生じる場合が多いのですが、本来かかっているコストに積み上げ方式で売価決定されている場合、生産性が高い農家さんであれば直接契約のメリットを活かせる競争力のある価格で仕入れ可能となるが、そうでない場合は、直接契約の方が③、④に比べて高くなるという状況になっている事です。
これが課題だと言えばそうなのかもしれませんが、アパレル業界でも「Tシャツ」という同じカテゴリの商品でも価格差があるように、食農業界でも「にんじん」という同じカテゴリでも価格差がある、と言ってしまえばそういう状況なので、そんな中でどうやって独自の仕入れプロセスを組んでいくかだと考えています。
最後に、農業・青果業界におけるIT化の余地に関してですが、生産、流通、販売、すべての領域において、おおいにあると思っています。すべてのプレイヤーが自然物相手のため変数が非常に多く、価格の予測が立てにくい業界だとは認識しています。ですが、例え職人気質のアナログなやり取りであってもそのすべてがIT化出来ないわけではなく、IT化出来る部分は必ずあります。特に弊社が1歩目の参入としたのは、農家さんの納品・請求管理のIT化です。日々多くの青果を出荷してもらい仕入れて来たからこそ、このアナログなルーティンをIT化すれば、農家さんも効率化で生まれた時間で別の付加価値の高い仕事が出来きると判断し、「Farmar’sPocket」というサービスを2017年5月にローンチするために動いています。
ここ最近ではアグリテックベンチャーが増えてきていますが、IT化できるところが本当にたくさんあるのは事実です。現場をよく理解し、本当に利用ニーズがある仕事をIT化していければ成功可能性も高いため、時には弊社がそれを利用する側になったりもしながら、食農業界を今より良いと言える状況にしていくために切磋琢磨していきたいですね。
株式会社アグリゲート:http://agrigate.co.jp/