気候変動による農業への影響 過去50年で穀物生産量10%減か
地球の平均気温が上昇するなか、気候変動が世界中に問題を起こすことが懸念されている。最も深刻な影響を受ける分野の一つが農業だ。ここ数十年の気候変動によって引き起こされている異常気象によって、世界中の農業が打撃を受けた。
ブリティッシュコロンビア大学の教授であり、グローバル食料安全保障とサステナビリティを専門とするNavin Ramankutty教授は「食料供給はすでに様々な側面から圧迫されている」と言っている。なかでも、気候変動が食料供給に与える影響は注目すべき点である。
世界の穀物収穫における気候変動の影響
Ramankutty教授はNature誌に特集された新しい研究の著者である。当該研究では気象災害と食料の生産との関連について調査がされた。
UBCとMcGill大学からの研究者のチームと研究を進めていく中で、Ramankutty教授は熱波と干ばつによってトウモロコシ、小麦、コメなどの穀物の収穫高が過去50年で10%も減少していることを発見した。加え、農業が技術的に発達している地域でさえも気象災害の影響を受けていることがわかった。
Ramankutty氏らは177ヶ国における16の異なる穀物の収穫高データを分析し、1964年から2007年の間に起こった2800の気象災害の影響について比較した。その結果、北アメリカ、ヨーロッパ、オーストラリアでは干ばつと熱波はどちらも平均しておよそ20%穀物収穫高を減少させたことがわかった。さらに干ばつと熱波による穀物収穫高の平均減少率は1980年代半ばには6.7%だったのに対し、ここ数年では13.7%になっているという事も分かった。
打撃を受けるのは先進国?
研究の共同著者であるPedram Rowhani氏は、豊かな国ほど異常気象による被害を受けると指摘する。進んだ農業技術や器具を有する農業先進国はそうでない国々に比べて、熱波や干ばつへの影響を敏感に受けるとのことである。
当該研究の最初の著者であるMcGill大学のCorey Lesk氏によると、北米では大規模農園が同じような穀物を統一された生産方法で生産しているため、干ばつがくると、ドミノ倒しに全ての農家が大きな影響を受けてしまうとのことである。
それに比べて発展途上国では各小規模農家がそれぞれ違った穀物を育てているため、干ばつが来ても幾つかの穀物が被害を受ける一方、被害を受けないものもあるとのことである。
これを踏まえRowhani氏は、政府が干ばつに対応できるような農業システムを導入しなければ、穀物収穫高の減少は将来さらに悪化するだろうとは言う。ただ先進国の農家たちは、自給のために穀物を育てているわけではないうえ、農業災害保険制度を利用することも可能であるため、異常気象に備えた生産方法をとるのではなく、生産高を最大限にするよう農業を行うべきであるとLesk氏は言っている。
炭素が農業に与える好影響
気候変動は常に悪い側面が注目されるが、Intergovernmental Panel on Climat Change の元メンバーによると、気候変動は農業いくつかの良い影響を与える。
アメリカ合衆国内務省の科学技術政策分析者のIndur Goklanyは論文の中で、炭素には植物の成長を促す働きがあり、そのことが化石燃料の廃棄の増加につながっていると指摘する。炭素による植物の肥沃化は10-15%穀物収穫高を増やす役割を担っているという。
またそれとは他に、大気中の二酸化炭素濃度の増加によって砂漠地では緑化が進んでいる。二酸化炭素が植物の水質を向上させ、以前に比べ植物が干ばつに強くなったのだ。
今までは、地球温暖化がもたらす悪い影響ばかりが注目されていたが、今後は二酸化炭素の増加がもたらす良い影響も注目されるべきだとGoklany氏も語る。Goklany氏は自分の論文が地球温暖化の良い影響と悪い影響の双方を分析していると語る。