インド農業の次なる大きな投資先、オーガニックフード
インド国内では有機野菜をはじめとしたオーガニックフードはまだニッチな食品分野である。近年の国内でのオーガニックフードの消費額は年間で約200百万ドルと見込まれ、そのマーケットは毎年成長率を上げている。
品質の悪い食品がグローバルなメディアで報道され、人々の自然食品への意識も高まったことが今日の需要の拡大につながり、人々は健康志向かつ安全な食品を望んでいる。新たな食品安全性に関する法案が施行され、安全基準も改善されている中、人々の可処分所得の増大もあってオーガニックフードに対する出費をいとわなくなってきている。
オーガニックフードとして販売されている食品の種類は現在200以上にのぼる。オーガニックティーやオーガニックスパイスに始まり、小麦粉などの穀物、バター、フルーツ、野菜、牛乳、ハチミツなどこのほかにも数多くあるのだ。
こうしたオーガニックフードが近年注目されている背景には、もう一つ鍵となる要因がある。eコマースだ。eコマースがオーガニックフードを扱う会社のマーケットへのルートとなっている。現在インドでは25を超える数のオーガニックフードを扱うeコマースのプラットフォームがある。そしてオーガニックに特化していない一般的な食品を扱うサイトでもオーガニックフードのカテゴリを設けて販売を行なっている。さらにISayOrganic
JoyByNature、ekgaon、organicshopといったオーガニックに特化した小売業者も存在するのだ。
オーガニックフードのサプライチェーン
従来の農業から農地をオーガニック仕様に変えるにはおよそ3年かかるという。有機栽培の認定を受けたオーガニックフードを扱う企業は、400人から500人ほどの農家のグループと協力して運営し、企業は農家に有機栽培に関する教育を行ってサポートしている。そしてその販売を企業が行い、利益を担保するシステムだ。
企業はオーガニックフードとして販売できるような食料の栽培を農家に奨励し、単一栽培ではなく、多品種を栽培するようにさせている。
サプライチェーンのマネジメントにおいて特に重要なのが認可を受けることだ。国ごとにオーガニックフードに対する基準は異なるため、企業が基準を設けて適切な認定機関を選択する必要がある。この機関とはUSDA(米国農務省)、EU、Control Union(認証検査機関)、OU Kosher(ユダヤ系の検査機関)なども含んでいる。
こういった基準を海外マーケットと同等にしていくために、インド政府は国家プログラム”National Programme for Organic Production (NPOP)”実施を行った。そのプログラムのひとつとしてPGS-India (Participatory Guarantee System of India)という品質保証に対する取り組みを実施し、ステークホルダーつまり農家と消費者の参加を促し、第三者のオーガニック認可に対し働きかけた。
オーガニックフードに関するプライベートエクイティ
オーガニックフード分野においては、以前から数多くの取引が行われてきた。SEAF India Agribusiness FundやSarona Capital’s investmentのKhyati Foodsとの取引や、Nexus Capital’s investmentのSuminter India Organicsとの取引が傑出している。投資額は3百万ドルから1千万ドル程度までの範囲で、資金調達時の企業の売上高は5百万ドルから1千万ドルの企業にわたる。このように、オーガニックフードを扱うスタートアップやアーリーステージのベンチャー企業に対するベンチャーキャピタルの投資が盛んである。
なぜ投資家たちはインドのオーガニックフードビジネスに対し、これほど強気な投資活動を行うのだろうか。それは成長スケールと収益スケールとの関係を表したグラフを見れば一目瞭然で、オーガニックフード業界というのは双方のスケールが大きく拡大すると見込まれるからである。
このスケール拡大が見込まれるのは、インドの年間食品消費額30兆ドルのうち、オーガニックフードが占めるのは0.1%にも満たないという現状によるものだ。同様に、インドのオーガニックフード消費額は、全世界でのオーガニックフード消費額10兆ドルから見ても0.2%に満たない。前述したようにオーガニックフードの種類の拡大がマーケットをさらに拡大させ、さらにeコマースによってそれらを販売する企業が現れたことが、スケールをさらに拡大すると考えられている。
収益性のスケール拡大に関しては2つの要因がある。一つはオーガニックフードは15%から50%のプレミアムの付いた価格で販売されることだ。現行のオーガニックフードビジネスは10%から25%のEBITDA(税引き前利益に、支払い利息、設備投資による減価償却、企業買収による暖簾代償却、特別損益などを加えた利益)によるマージンが生まれる。このマージンはオーガニックフードという高いブランド価値が生むものだ。インドの豆類といった主要産物や野菜類などの商品は、長年低価格で販売されてきたものだが、ブランド化を行うことで高い価値で販売することが可能になる。
もう一つの理由は、現在のオーガニックフードのサプライチェーンは従来のアグリビジネスに比べて効果の高いものだということに投資家が興味を示しているということだ。オーガニックフードの場合、従来の食品に比べて仲介業者が少なく、品質の維持やコスト、トレーサビリティーに関して有利である。
多くの投資家が最も気にするエグジット先は、おそらく新たなオーガニックフードのマーケットに入り込まんとするヨーロッパや日本、アメリカのプレイヤーになるだろう。
つまるところ、500百万ドルから2十億ドルに渡るインドのオーガニックフードのマーケットは非常にチャンスなのだということだ。2020年までには、インド国内では1十億ドルのマーケット、国外輸出も1 十億ドルの規模になると見込まれている。
この市場規模を実現するためには、今後5年およそ300百万ドルの投資が必要になる。そのうち、100~150百万ドルの投資がプライベートエクイティ投資という形になると考えられる(10~15ディール相当)。
オーガニックフード産業に期待の高まるタイミングがまさに今であり、消費者や小売業者、企業、農家、投資家、認可機関、輸入業者そして政府といった全てのステークホルダーが、この産業の発展によって恩恵を受けると見られる。