農業における人工知能の課題
南アフリカの中心地で、トウモロコシ栽培の農家らは一人の農学者と灌漑ピボットのそばにある彼のコンピューターを囲んでいた。その農学者はハイブリッドUAV(プロペラを使いながら離陸して土地を取得し、一定の翼を使用して広大な土地をスキャンするための距離と速度を維持する装置)をそこで旋回させた。
UAVは、飛行直後にオンボード処理を行う4つのスペクトルバンド精密センサーが装備されており、農業従事者や現地スタッフは、センサーが記録する作物異常をほぼ直ちに処理し、データをリアルタイムで収集することができる。
このケースでは、農業従事者と農学者は、正確な植物個体数を得るために特殊なソフトウェアに頼っている。
トウモロコシが播種から10日ほどで発芽した時期で、農業従事者は初夏の雨期に起こりがちな発芽不良や風害のために、もう一度播種する必要がないかどうかを判断したいのである。
植物の成長の段階において、農業従事者は再播種をするのに10日間の期間がある。これは多くの肥料や農薬の散布が必要になるまえの期間である。これらが散布されると、是正措置を行うことは経済的に不可能になり、その後収集されるデータは記録として、今後来る季節に対して将来行う作業を知らせるためだけのものになる。
ソフトウェアは15分以内に処理を完了させ、植物個体数を数えたマップを作成する。ここ数年の精密農業やリモートセンシングで達成された進歩を示しつつ、一年前まではまったく同じデータセットを処理するのに3日から5日はかかるだろうと言われていたことを理解しないことには、これがいかにインパクトのあるかということを理解するのは難しい。同じような環境下の同種の作物についてアメリカで開発されたこのソフトウェアについて、農学者はソフトウェアがほぼ正確な結果を生み出すと確信している。
マップが画面に表示されると、農学者はそれに目を落とす。飛行前に植え付けられた列を歩いて地面の状況を物理的に理解していたため、彼は自分の画面上で植物個体数が正確でないことに気付いた。リモートセンシングマップの読み方がわからない農業従事者でさえ、その数が正確でないことは理解できた。
農業における人工知能のポテンシャル
仮説的には、すべてのものの物理的な相互作用に関する地球上のあらゆる問題を、人工知能や機械学習を用いて解決することを機械が学ぶことは可能であるとされる。
人工知能の原理は、機械がその環境を知覚することができ、柔軟な合理性の一定の受容能力を通じ、その環境に関連する特定のゴールに向けて行動することだ。そして機械学習とは、同じ機械で、指定された一連のプロトコルに従って、機械が受信するデータの統計性質が向上することにより、環境に関連する問題や目標に対処する能力を向上させることだ。もっと簡単に言えば、システムが特定のプロトコルに分類できる類似のデータが増加するにしたがって、合理化する能力が向上し、結果の範囲をよりよく「予測」できるようになるのである。
デジタル農業とその関連技術の登場により、新しいデータの可能性が広がった。リモートセンサー、サテライト、そしてUAVは、1日24時間休むことなく、フィールド全体の情報を収集することができる。それらは、植物の健康状態、土壌状態、温度、湿度などの情報を収集する。そのセンサーが集めるデータの量は圧倒的に多く、それらのデータから得られる数値の重要性は極めて高い。
このアイデアは、その状況をよりよく伝えるリモートセンジングのような高度な技術により、農業従事者が畑の状況を肉眼で見るよりも深く、正確に、迅速に理解することができるようになる。そしてより正確なだけでなく、歩いたり車で畑を走行するより素早く行うことができる。
リモートセンサーは、アルゴリズムが農業従事者の意思決定のために理解され、有用な統計データとして現場の環境を解釈することができるようにする。アルゴリズムは受け取ったデータをもとに適応と学習をしながら処理を行う。より多くの入力と統計情報が収集されるほど、アルゴリズムは結果の範囲を正確に予測しやすくなる。そして、農業従事者がこの人工知能を利用して、現場でのより良い意思決定を通じて、より良く多くの収穫を得るという目標を達成することが狙いだ。
2011年には、イスラエルのハイファにあるR&D本部を通じて、IBMは農業向けクラウドコンピューティングプロジェクトを開始した。このプロジェクトは、多くのIT専門家や農業従事者らと協力して、農業環境からさまざまな学術的・物理的データソースを取り出し、これらを農業従事者のためのフィールド上でのリアルタイム意思決定をアシストする自動予測ソリューションに変えるという目標を念頭に置いていた。
当時のIBMプロジェクトチームのメンバーのインタビューでは、彼らは農業を「アルゴリズム化」することは絶対に可能であると考えており、アルゴリズムは世界のあらゆる問題を解決することができると考えられていた。その年の初め、IBMの認知学習システムであるWatsonは、ジェパディ(アメリカのクイズ番組)で前勝者のBrad RutterとKen Jenningsと対決し驚くべき結果を出した。数年後、Watsonは医学分野で画期的な成果を生み出し、IBMの農業プロジェクトは閉鎖・縮小された。最終的にIBMは、農業のための認知機械学習ソリューションを作成する作業が、予想よりもはるかに難しかったと認めたのである。
ではなぜそのプロジェクトは医学分野で成功し農業分野では功をなさなかったのだろうか?
農業は何が異なるポイントなのか?
農業は、統計的定量化の目的を含めるのが最も難しい分野の1つである。
1つの圃場であっても、条件は常に1つのセクションから次のセクションに変化する。予期せぬ天候、土壌の変化、害虫や病気が訪れる可能性は常に存在する。農業従事者は将来の良い収穫を期待するが、その日が到来するまで結果は常に不確実である。
それに比べ、我々の体は封鎖的な環境だ。農業は自然界、相互作用する生物との関わりや生態系の中で行われ、作物生産はその生態系環境内で行われる。しかしこれらのエコシステムは封鎖される事はない。作物は半球全体に影響を与える気象システムや大陸から大陸への気候変動の影響を受ける。したがって、農業環境の管理方法を理解することは、何千もの要因を考慮に入れながら、文字通り何百というパターンを考慮に入れるということを意味する。
アメリカ中西部地域の同じ種子および肥料に関するプログラムで起こりうることは、オーストラリアまたは南アフリカで発生する可能性とはほとんど関係が無い。相違に影響を及ぼすいくつかの要素には通常、作付けされた作物の単位面積当たりの雨の測定、土壌の種類、土壌劣化のパターン、日照時間、温度などが含まれる。
そのため、機械学習と人工知能を農業に導入する際の問題は、農学者が農業従事者の大きな懸念に対処するためのプログラムとプロトコルを開発する能力が不足しているのではない。問題はほとんどの場合、全く同じ状況がなく、そのために技術のテストや検証、および展開が他産業よりもはるかに面倒であることだ。
実際、私たちの物理的環境に関連する全ての問題を解決するためにAIや機械学習を開発することができれば、地球上の物理的活動や物質的活動の相互作用のすべての側面を完全に理解していると言える。結局、認知システムの合理的な能力が発揮されるようにプロトコルやプロセスが設計されているのは、「物の本質」を理解することだけである。そして、AIや機械学習は、私たちの環境を理解する方法についてたくさんのことを教えてはくれるが、農業のような分野で純粋に機械の認知能力を通して重要な結果を予測することはできない。
結論
何十億ドルもの投資をしているベンチャー・キャピタル・コミュニティに支えられ、現代の農業技術のベンチャー企業は、できるだけ早く開発を完了し、開発製品を流通させるよう促されている。
しかしそうすることで実際には、製品の故障を招くとともに市場からの懐疑的な反応を招き、機械学習技術の完全性に打撃を与える。ほとんどの場合、問題は技術がうまく働かないことではなく、農業が管理しきれない環境の1つであることを業界が尊重する時間をとらなかったことだ。技術が現場にきちんと好影響を与えるためには、農業分野でこれらの技術をテストするより多くの労力・技術・資金が必要だ。
それが本当に重要と捉えるかは、農業従事者によって差はあるが、このような技術を世界規模で重要な市場に統合することで、人工知能と機械学習が農業に革命を起こす可能性は大きい。技術が本当に重要となり農家に変化を与えられるのは、その後であろう。
Link:https://agfundernews.com/the-challenges-for-artificial-intelligence-in-agriculture.html