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異常気象 干ばつと酷暑が原因、年間穀物生産量10%の低下

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過去50年で、数えきれない程の干ばつや酷暑が世界中の国々に被害を及ぼしてきた。新たな研究結果によると、こういった異常気象が原因で、各国の穀物生産量は年間平均で約10%減少したのだ。また、それによって累積された損失は世界規模で30億トンもの穀物生産量に相当するとされ、これは去年における世界全体のトウモロコシ収穫量の3倍に等しい。

異常気象による実質的なダメージ

Nature誌に掲載された新たな論文によると、1964~2007年に渡って発生した気象災害の間に、穀物生産高の各国平均の減少が見られると考えられている。そして、干ばつや酷暑といった異常気象が、世界中の穀物生産に大きなダメージを与えていることも示唆されているのだ。

以下の分析図からその被害の程度をうかがえる。大きい方のチャートが示すのは、気象災害が発生する前後3年と比較した穀物生産量の平均減少率であるが、赤が干ばつによる10%の減少を、オレンジが酷暑による9%の減少を指している。

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source:http://www.carbonbrief.org

大きい方のチャートは、酷暑(オレンジ)や干ばつ(赤)前後の正常な年と比較した、その発生時における穀物生産の平均減少率を示している。小さい方は干ばつによる地域別の平均減少率を示す。

研究者が指摘しているのは、概して被害は干ばつや酷暑が発生している期間に限られており、それが過ぎた次の年には穀物生産は通常のレベルに回復しているということだ。

先進国に見る減少率の大きさ

また小さい方のチャートを見ると、アフリカ(緑)やラテンアメリカ(青)といった途上国よりも、先進国であるヨーロッパや北アメリカ(紫)において干ばつの引き起こす穀物生産量の減少率が大きいことがわかる。

例えば干ばつが発生している間、アフリカ諸国では平均9.2%の減少なのに対し、技術的に進んだ営農システムを持つ北アメリカ、ヨーロッパ、オーストラリア地域では、平均19.9%の減少が見られたのだ。

「これは驚くに値することかもしれませんが、事実なのです。」とリーズ大学で気候影響に関して研究しているAndy Challinor教授は語る。彼はこの研究に参加してはいなかったが、イギリスを拠点に環境政策に関するウェブサイトを運営するCarbon Briefに対して「一般に発展途上国における栽培植物は、そういった異常気象に適応しているわけではありませんが、気象に対する耐性はあるのです。よって限られた肥料や不定期な降雨であっても適度な収穫量をもたらします。」と説明した。

一方、西洋諸国における農家は作物保険、化学肥料、農薬等を多く用いる傾向がある。そうすることで単一の穀物品種に焦点を絞り、収穫量を最大化するのだ。「この様なアプローチはモノカルチャーとして知られていますが、栽培植物を異常気象に対して脆弱なものにしてしまいます。」とブリティッシュコロンビア大学で世界の食糧保障や、その持続可能性に関して研究しており、この記事の共著者でもあるNavin Ramankutty教授は言う。彼はCarbon Briefに対し「一つの品種に全てを投資することを目的としない、より多様な営農システムに比べ、モノカルチャーというシステムは気象によるダメージに左右されやすいのです。」と述べた。

Challinor教授は、「しかし、重要なのはその数値が、先進国の方が異常気象に対し脆弱であると示すものではないということです。」と指摘した上で、「発展途上国が最も脆弱であるのは言うまでもありません。食糧生産に多くを投資することはできませんし、そもそも収穫量自体が先進国に比べて非常に少ないからです。」と語った。

増えゆく干ばつ被害

特に干ばつに注目してみると、比較的最近にかけて発生したものが、穀物生産に大きな被害を与えていたことが研究者の調査からわかった。1964年~1984年にかけてのデータと、1985年~2007年にかけてのデータをそれぞれ分析すると、前者の期間での穀物生産の平均減少率は6.7%なのに対し、後者では13.7%であった。

研究論文によると、これは栽培植物の脆弱性の高まり、データ収集技術の向上、それから考えられるものとして、干ばつの強さや、それに見舞われる期間の増加といった複数の要素が組み合わさった結果と考えられる。

「気象が変化するにつれて、穀物栽培への危険性が高まる可能性も示唆されています。」とRamankutty教授は語る。同氏はまた、「現在の気候モデルからこの先、異常気象の頻度やその激しさは増すだろうと予測されます。これは特に酷暑の場合にも同じことが言えます。従って、不安定な気候が引き起こす強力な気象災害により、穀物生産量はさらに減少するだろうと我々は見ているのです。」と述べた。

「西洋諸国はこういった危険に対処するために、行動を起こさねばなりません。」とChallinor教授は警告し、「穀物栽培は継続的な気象変化にともない、徐々にダメージを受けやすくなると考えられます。また、その研究結果はもう一つの適切な警告も示しています。それは今の食糧システムが現在の気象に適応しつつあるからといって、先進国は現行のシステムに固執すべきではないということです。」と指摘。

UK Global Food Security programmeは去年、異常気象による世界の食糧供給に対する脅威を考察した。そのレポートを読むと、さらに多くを知ることが可能である。

気象関連の災害

分析図が示す数値を導き出すために、研究者らはEmergency Events Database(EM-DAT)による、約28,000に及ぶ気象関連の災害データを分析した。このデータベースはベルギーにあるCentre for Research on the Epidemiology of Disasters(CRED)で管理されている。

彼らは災害データと、トウモロコシ、小麦、米などを含む16の栽培植物に対する国レベルの穀物生産の統計とを相互に参照した。Ramankutty教授はCarbon Briefに対し、「我々が取ったアプローチは、穀物生産のデータの中に、気象災害が発生する時期と重なる何らかのシグナルがあるかどうかを調査するというものです。その際、シグナル(災害による生産減少)と、ノイズ(その他複数の要因による年間生産量の上下)を区別するといった方法を取りましたが、この方法は大いに有用でした。」とし、

「そして、二つの観点から穀物生産に対するダメージを計測しました。それは生産量の減少という点と、農家の耕す土地数の減少といった点からであり、後者は見過ごされることが多いのですが、異常気象が穀物生産に与える影響を見る際の重要な側面となります。異常気象により収穫不能なまでに収穫量全体が落ち込むと、耕す土地数も減少します。農家にしてみると、そのような状況で収穫を試みても意味はないのですから。」と述べた。

また、分析の際に洪水や異常低温といった気象災害も考察してみたが、穀物生産への大きな影響は見られなかった。

研究論文によると、傾向として洪水や異常低温は特に北半球の温帯地域で、冬や春といった時期に発生するからだと考えられる。つまり、主な栽培シーズンではない時期に発生するため、穀物生産に与える影響は少ないそうだ。

加えて洪水は、酷暑や干ばつに比べ局所的である傾向が強い。従って、調査で用いられた国レベルで見た穀物生産の統計に、それほど影響することはなかったようである。

 

参考:http://www.eco-business.com/news/droughts-and-heatwaves-cause-10-per-cent-drop-in-annual-crop-harvests/

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