• このエントリーをはてなブックマークに追加

香港の都市農業:「雲耕一族」の屋上農園はコミュニティを育む

Pocket はてブ

繁栄と貧困の街「香港」に突如現れる「屋上農園」

香港の中心地にある高層ビル群。地球上で最も人口密度の高い都市の眺望を楽しめる有名な観光スポット「ビクトリアピーク」に行く途中、その都市のど真ん中に「農業」があるだなんて誰も想像しない。観光客は、ビジネス街、金融街、百貨店街、そして、都市農業に思いがけず出会うことになる。

屋上農家によって農産物が育てられている様子は、東洋の繁栄や経済の頂点を象徴する香港では不思議に思われるかもしれない。しかし、香港人の5人のうち1人が貧困層にいることも事実である。新鮮かつ自由に入手可能な食料は多くの香港人から需要があることから、屋上農園はこの問題の解決の一翼を担う。

都市農業や屋上農園は、世界的に見ると特に新しい取り組みではない。例えば、ブルックリン(アメリカ)やロッテルダム(オランダ)、そして東京においても有名な取り組みが既に存在する。(詳しくは、Webサイト「世界の屋上農園トップ5」を参照してほしい。)

野菜だけでなくコミュニティも育む

この屋上農園を運営する「雲耕一族」の共同創設者であるアンドリュー・ツイ氏は、香港という街のために何かやりたいと思っている都市住民同士のコラボレーションを誘発するプロジェクトとして4年前にこの事業を始めた。このプロジェクトでは、昨年に10か所が整備された。中には企業ビルの屋上にある利用されなくなったヘリポートも整備された。

それぞれのプロジェクトは特徴を持っている。例えば、フリンジクラブの屋上では、バジルやローズマリー・レモンバーム等のハーブや、オクラやキュウリ・ほうれん草などの野菜が栽培されている。屋上農園は、地元のシェフやレストランと提携しており、食事やカクテルとして振る舞われている。

また、他のプロジェクトでは「フードバンク」に農産物が送られるほか、学校の科学や生物の授業カリキュラムとしても採用されている。また、地域住民向けの講習やワークショップの形式で農作業を楽しむこともできる。

このプロジェクトの実績は生産だけにとどまらない。アンドリュー氏は、主要な狙いを社会的な意義として位置付けた上で、「地域住民同士がリアルな場で共に農を楽しみお互いに繋がり合い、毎日の食を通して多忙な都市住民をもう一度繋げていける場にしていきたい」という。

これは、発展を遂げるコミュニティの大きな構想の中の話である。それぞれ育まれる取り組みは、地域の関係者によって構成されるグループによってデザインされ、持続可能性や環境問題に関する問題提起を行う。アンドリューは、その狙いを「『特殊な状況における潜在的な関係性』や『コミュニティのための場所』の扉を開くこと」と説明する。

新たな可能性を秘める都市農業

この取り組みは、企業の関心を惹きつけ、企業の社会的責任をより広い地域コミュニティと結びつけるものでもある。屋上農園は海外への発信も行っており、韓国などの外国からの関心を惹きつけている。

彼らはローカルとグローバル双方の来訪者を歓迎し、「自然と共に持続可能的な暮らしを可能にすること。また、農産物とは人々が愛着を持って育てることによって与えられる贈り物であること。」について彼らが共有するだけでなく、彼らもまた来訪者から学んでいく。未来を見据えると、このアイディアはグローバルな市民権とも繋がっていくという。

来訪者が最も驚くべき視点は、香港という街が多忙な700万人都市でありながら貧困地域であることかもしれない。統計によると、香港は先進国の中で最も大きな収入格差がある都市だという。また、毎日3,200トンもの食料廃棄が発生しているという。

この屋上農園は香港においても唯一の取り組みではない。例えば、HK Farmも類似した取り組みを展開している。また、Feeding Hong Kongは、食品廃棄の逆流通のネットワークをすでに展開している。しかし、誰もが「資本」に目を向ける都市である香港においては、このようなオフセットを目的としたグリーンな取り組みには、なかなか目を向けることができていない。そんな中、こうしたコミュニティを育む都市農業のモデルはイノベーションと呼べるのかもしれない。

 

参考:https://www.hongkongfp.com/
雲耕一族公式HP:http://www.rooftoprepublic.com/

Pocket はてブ