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異国の地でオーガニック農業17年 大賀昌氏インタビュー

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・大賀氏プロフィール
1956年、宮崎市に生まれる。1999年、タイにHarmony Life International Co., Ltd.及び、Harmony Life Organic Farmを設立。2010年、SUSTAINA Organic Shop & Restaurantをバンコク市内にオープン。自社農園にて栽培したオーガニック農作物をSUSTAINA、デパート、スーパーで販売している他、自社工場にてオーガニック製品と環境に良い製品を製造し、世界10カ国以上に輸出をする。また、食の安全と地球自然環境を守るためにオーガニック農法の普及も積極的に行なっている。現在、Harmony Life オーガニック農園は5つのオーガニック国際認証を得ており、タイ国農業省のオーガニック農場のモデル農園に指定されている。

 

まさに畑違い。農業に足を踏み入れた理由、そして苦労

農業とは関係のない経歴をお持ちですが、なぜ農業をタイでやろうと思ったんでしょうか?

まず、タイに来たのは今から22年ぐらい前です。最初タイに来たきっかけは、日本の医療機器メーカーがタイに会社と工場をつくるために、タイに派遣されてきました。しかし、私は自然が大好きで、本当に私たち人間がものすごく自然と環境を破壊して、たくさんの生物たちもこの地球からいなくなってきていることをとても悲しく思っていました。また、農薬や化学肥料、添加物が大量に使用されるようになり、安全・安心な食べ物も本当に少なくなってきました。だから、そういったことに貢献できるような仕事をしたいなって前からずっと思っていたんです。タイに来てからその思いがずっと強くなりました。

有機栽培となると慣行栽培に比べてよりノウハウが必要になると思うのですが、どうやって掴んでいったのですか?

僕は農業経験ひとつもない。なにも植えたことないんですよ。まずやったことは、タイのカセサート大学という農業の大学に行きましてね。まずはどうやって農園作ればいいのか。知識がないので、素人が勝手にやったってうまくいかないわけで、やっぱりそういうプロフェッサーの先生にお手伝いしてもらおうということで、お願いに行きました。たまたま農場の設計、水システムに詳しい先生と出会うことができまして、いろいろなアドバイスをもらい、ハーモニーライフの農園を設計していただきました。特に農場で一番大事なのが水システムです。水システムをどうしていくのかっていうのをお聞きました。

農業用水はね、川の水は使わないということを決めていました。それは、川の水っていうのは周りの農家さんから農薬が入ってくる可能性があるでしょ?雨で農薬が流れてくる。また川の水は家庭排水が入ってきます。特にタイは家庭排水を垂れ流しなので、全部家で使ったものが流れてくるわけです。だからいくらオーガニックの農園といってもね、川の水を使ったんではダメだってことで、僕は地下水を使うってこと決めていたんです。現在使っているのが150mの地下水です。すごく綺麗ないい水でね。

それからオーガニックの栽培法ね。これがね、苦労しました。なぜならタイはその頃オーガニックなんてどこもやってないんですよ。それでどうしたかっていうと、まずは自分で勉強しました。本読んだりね。もうひとつはタイの農家さんで農薬、化学肥料使っていない農家さんあるんですね、小さな農家で。そういったところ見学させてもらう。あと遠いところでは、日本とアメリカですね。特にアメリカはそういったオーガニック農場が結構ありましてね、そこは随分勉強になりました。

一番苦労したことっていうと、やはり有機農業の方法を模索するといったところでしたか?

一番は有機栽培における病虫害ですね。要するに病虫害を予防できればオーガニックは成功ですよね。けれどみんな挫折します。日本でもそうですね。オーガニックやってみよう、農薬、化学肥料使わないでやってみようと思った人たちでも病虫害で挫折する人がたくさんですよ。だからどうやって病虫害をなくしていくかっていうのが一番のキーポイントだし、これができればオーガニックは広がるわけです。

具体的にどういった対策を取っていたんでしょうか?

最初の5年は病虫害だらけ。全滅です。薬もまけないし、病気になっても何もできない。わずかにできるのはハーブやストーチュー(お酢とアルコールを使った自然農薬)、木酢液を使用すること。ハーブはニームやシトロネラ等を使用しました。そのニームやシトロネラの葉っぱには虫除けの効果がある。ハーブやストーチュー、木酢液をスプレーして。でもやっぱりその時いなくなるけど、またすぐ寄って来ちゃう。その繰り返しで、結局病虫害だらけっていうのが5、6年間ぐらい。その5、6年間が僕は本当に一番辛かった。

一変させたのはどういったことなのでしょうか

こういうことがあったんですね。いろんな野菜もそうなんだけど、同じ種で同じように栽培するんだけど、こっちの畝は病虫害だらけ、100mぐらい離れた向こうの畝(うね)は病虫害がない。なぜこっちは虫に食べられるのか、なぜ向こうは食べられないのか。そういうことが農業やってると何度もあるわけです。ずっとなぜかわからなかった。

でもね、よく見てみるとね、食べられない方はすごく元気に育った野菜なんです。食べられる方の野菜は何かひ弱。それははっきり僕はわかりました。ということは、虫の役割がわかったんです。虫は元気じゃない弱い野菜を食べる。元気な野菜を虫は食べないんです。逆に言えば、元気に育った野菜は、虫を避ける何かを出しているんです。もちろん元気な野菜は病気にもなりません。

要するに農作物っていうのは、何千年、何万年自分で種を育てて、それを繰り返しながら現在に品種を残してきたんです。病虫害を乗り越えて生き残っているのが今の作物ですよ。だから本来、作物は虫や病気を避ける力を持っているんです。ところが人間が変なことやるもんだから農薬やるとか、化学肥料やるとか、本来の力を出し切れない。だから農薬を使えば使うほど虫に弱くなります。だからもっと農薬を使わないといけなくなるという悪循環が起こるのです。

わたしの農園もね、今まで虫を避けることばかりを考えて、いろんなことをやってきたんです。どうしたら虫を避けれるか、何をしたら虫が寄ってこないかって。ありとあらゆることやってみたんです。だけどどれをやっても同じです。しかし、「虫は弱い野菜を食べる、元気な野菜を虫は食べない」という虫の役割に気づいた時に、虫を避けることやめました。どうやったらもっと元気な野菜を栽培できるのか、もっと強い野菜を育てることができるのか? ですから土づくり、肥料づくり、水やり、種、栽培方法のすべてをやり直さないといけなかったんです。

 

アメリカで気づいたこれからのオーガニックのあり方

国にオーガニック農場のモデル農園として指定されていますが、ほかと違うところはどんなところでしょうか?

やはり非常に病虫害が少ないところですね、他の農園と比べて。それとやっぱり生産管理もしっかりしてるし計画もあるし、それからいろんな加工品も自分たちで作っている。工場も2つあって、そこでいろんな製品を作っていますし、世界10カ国以上に輸出しているわけですから。そして、年間500名以上の方々にオーガニック農法の教育をして、オーガニック農業の普及に大きく貢献をしていることです。

代表的にはどういったところに輸出しているのでしょうか?

一番多いのはアメリカですね。アメリカで今、スーパーマーケットで言えば520店舗でうちの商品が販売されていますね。特にホールフーズマーケット。これは世界ナンバーワンのオーガニックのスーパーマーケットですね。それがいま300店舗あるんですけど。アメリカに6年前に僕は初めて一人で行ったんですけど、その一番の目標は、うちの商品をホールフーズマーケットで扱ってもらうこと。すんごいハードルが高いんです。

それはどういったところが厳しいのでしょうか

オーガニックの基準ですね。ホールフーズマーケットっていうのはね、普通のマーケットと全然違うんです。もう本当にシステムから、製品の品質基準から、考え方から全然違う。

もちろん一つ一つの成分、製造工程を厳しく審査されます。ホールフーズは普通のスーパーの在り方とも大きく違います。ホールフーズは、農民さんのところに行くんです。農民さんのところにいってオーガニックを教えて、商品開発を一緒にやるんです。オーガニックのテクニックを教える。商品開発も、こんなの一緒に作りましょうと。っていうのがホールフーズのあり方ですね。やっぱね、ホールフーズのあり方っていうのはね、私のモデルなんですよね。農民さんたちを助けて、一緒に考えて、一緒に商品を企画して作って、それを販売していく。素晴らしいですよね。僕自身も、Harmony Lifeの経営もそう在りたいと思っています。

いまタイで農業をしていて、今後タイの農業はどうなっていくと思いますか?またどうなっていくと良いのでしょうか?

僕がいま一番力入れているのは、やっぱりオーガニックを広げるっていうことです。何をやっているかというと、農園に農家さん集めた教育。農家さんのうち半分がタイから。そのほかはASEANや日本からですね。その人たちに僕が経験したことを隠すことなく全部教えます。テクニックも全部。その人たちがいままでの農薬、化学肥料を使った農業をやめて、オーガニックに取り組んでいくようにそういうサポートをすることが大事だと思いますね。

タイで農業をしていて日本の農業はどういう風に見えますか?

日本の農業はすごく遅れてますよね。特にオーガニックの分野では先進国でも最低レベルですね。どのオーガニックの展示会へ行っても、日本から出てる商品っていうのはどれも貧弱。やっぱり、これは国自体がそういうことの目標がないので、それは遅れてきますよね。

日本の国はね、世界から見たら農業には最適な土地なんです。雨も一年中降って、四季がある。東西に長いからいろんな作物が作れる。水は綺麗だし。だから本気でやればね、一番オーガニックには向いてる国なんですよ。タイなんかよりもはるかに農業から見ると恵まれています。水、土壌、気候。やっぱりそこを農薬、化学肥料で汚すんじゃなくて、食べ物の基本に戻らなきゃいけないんです。食べ物って一体なんなの?って。

人間が一番大きくミスしたのは、食べ物を金儲けの道具にしてしまったことなんです。要するに大量生産して、大量に売る、その為には大量に栽培しなければいけない。大量に栽培する為には農薬、化学肥料がいる。大量に売る為にはいろいろな添加物も入れなきゃいけない。食べ物って本当は食べて健康になるのが食べ物なんですよ。ところが企業が何をやってるかというと、健康のことは考えないで、いかにたくさん売るかっていうゲームをやっちゃっている。食べて健康になるのでなく、食べて健康を損なう食べ物がたくさん販売されています。だから本来の食べ物の意味を、真剣に考えなきゃいけないんですね。これは日本だけじゃなくて世界中なんですけど。

この先タイで農業を続けていくうえで、どういったビジョンをお持ちですか?

やはりどうせタイでオーガニックでやるなら、タイを世界ナンバーワンのオーガニックの国にしたいですね。いま一生懸命僕がいっているのは、ASEAN Organic Certification(ASEANオーガニック認証)。ぜひ作っていきたいですね。いまOrganic Thailandあるでしょ。オーガニックベトナム、オーガニックマレーシアあるでしょ。だけどお互いにこれを認めないのでね、全然流通ができないんですよ。オーガニックタイランドはタイの国でしか通用しない。やっぱり世界に共通できるそういうCertification、そういうレベルっていうのをひとつ作れればなと思いますね。

ASEAN独自のルールがあったほうがいい理由って何なのでしょうか?

ASEANの場合はいま何が起こっているかというとね、タイでオーガニック認証取っても、マレーシアで売れない。要するにせっかくASEANっていう経済圏ができたんだから、これはお互いにものが交換できるようになったら素晴らしいじゃないですか。それがまだできていないんですよね。だからまず最初にASEANでものが交換できるシステムを作る。その後にこのオーガニックの認証がヨーロッパやアメリカの認証に肩を並べるようなレベルにしていく、そういういことが将来的には大事なことなんじゃないかと思いますね。

なぜ僕がそういうことを思っているかというと、オーガニックの認証っていうのはね、1年間だけなんです。世界中そうです。ですから毎年お金使わないといけない。例えばどんなに安くても1000ドルはいりますね。認証を取るのにね。これはインターナショナルの認証の場合ですね。その1000ドルを毎年出せる農家さんなんてないですよ。僕がオーガニックタイランドがいいなと思っているのは、無料なんです。これはタイ政府がサポートしてくれているから。

そしてオーガニックタイランドは前に比べると随分厳しくなりました。2002年にオーガニックタイランドはできたんだけど、その頃はまだまだ信用がないというか。だけど15年たって、いまのオーガニックタイランドはかなり厳しいし、しかもスーパーやデパートの抜き打ち検査を始めてますね。そういうシステムをASEANに広げていけば、本当にやる気のある農家さんが取り組める。タイのオーガニック認証は、それが僕がとても認めているところですね。

結局農家さんだけがオーガニックを頑張ってもダメなんです。オーガニックを欲しい消費者が増えなければ、生産しても売りどころがないわけでしょ?オーガニックを広げるために。お客さんの教育の場なんです。オーガニックはおいしいですよ、これだけ安全で健康にいいですよ。そして教育をしていく。

本来は消費者があって生産者があるんです。農家さんがいくらオーガニックやったってそれ買う人がいなければ、これはだめですね。消費者たちがオーガニックのものを食べますって言って欲しいですよね。そうすれば企業は考える。農家さんも考える。政府も考える。

アメリカやヨーロッパであれだけオーガニック広がってきたのは、消費者が強いわけですよ。消費者がオーガニックの野菜や製品を欲しいと言うから、みんなやるわけですよね。だから農業を考える場合には農家さんだけを考えると失敗になります。農家さんと消費者の両方の歯車ですから。オーガニックの場合にはオーガニックの消費者がいるからオーガニックの生産者がいる。これが両方大きくなっていかないと、オーガニックが広がっていくことはできません。

タイがいま非常にうまくいってるのは、オーガニックを欲しい消費者がたくさん出てきているわけですね。間違いなく、日本よりもはるかにタイはオーガニックが進んでいますね。こういったオーガニックを使ったお店がタイ中に広がっていけばいいなって思いますね。

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